新聞広告でみかけて中身を確認もせずに購入。
しかし、無茶苦茶面白く、買ってよかった。
短編連作なので1日で読了(読み始めると止まらない!)。
恥ずかしながら、本書で初めて宮家と公家の違いをはっきり知った。
考えてみれば「光る君へ」の藤原氏は公家だけど宮家ではない。
ざっくりいえば宮家は皇室に近いご親戚(天皇家は”直宮 じきみや”といったらしい p70)、公家は皇室を補佐する官僚。
皇室や公家の力が衰えた江戸時代に宮家はほとんど消滅し、幕末には宮家は四家しかなかった(p10)。
伏見宮、有栖川宮、閑院宮、桂宮だけで、公家筆頭扱いだが五摂家:近衛、鷹司、一条、二条、九条より下にみられていた(p81-82)
宮家も公家もないごっちゃな順番。
明治天皇は宮家を増やそうとなさり、たいてい僧侶になっていた宮家の次男や三男たちに還俗をお命じになられた。
彼らはあちこちに子供を作り(林さんはこれを何度もさらっと書いているが、愉快な話ではない)、明治時代に宮家が急増(p10 一時、十一家を数えた p63)。
この動きに眉をひそめていた元勲・山縣の懸念もあり、明治末期(早っ!)には長子以外は華族になる法律ができた(p83)。
この事情だけでも十分に面白い。
皇室の御使命の一つは祭祀をなさることだが、もう一つは、かつては<子をなすこと>だった(現代はどうかは別の問題)。
そのための悲劇が本書のテーマ。
いい例は宮中某重大事件(いつも思うのだがこのネーミング、いい)。
久邇宮家の色覚の問題は、良子さまの母君からの遺伝とされたという(p9)。
その母君は島津家出身。
ああ・・・また、ご先祖のお殿様がご迷惑を。とはいえ、当然、長州・薩摩の綱引きがあった。
その時の実家、久邇宮の”不穏な”動きは知らなかった。
また華族も公家出身と武家出身があり、当然、後者の方が大金持ちだった(たとえば前田家とか p22)。
これはこれで微妙なパワーバランスを生み出したらしい。
本書の系図を頑張って作ったら、こんなことに。青く囲んだのは作品の主人公
私が面白かったのは「綸言汗の如し」。
エドワード8世がわがまま言ってアメリカに行っちゃったようなことが日本でもあったのか!という、完全に「週刊女性」ノリな楽しみ。
殿上人といえども人の子。
そして、男はわがままだなあと思う・・・私も男だが。
それから時代が近く、朝敵会津の子孫が皇室に入るという歴史的意義があり、しかもどこか今上天皇・皇后のご一件を思い出させる「母より」も面白かった。
最も面白かったのが表題作の「皇后は闘うことにした」。
漫画「昭和天皇物語」ではさながらフィクサーのような節子さま(貞明皇后陛下)だが、この短編での若き陛下は、孤独でご自分の生の価値をお疑いになる。
そこへ下田歌子があることを陛下にお伝えする。
皇后陛下はご自身の使命をはっきりと自覚なさり、生き方を取り戻される・・・という感動的で、しかも「昭和天皇物語」の前日譚としてぴったりな作品。
女性なら、共感したり、勇気づけられる短編連作だと思う。
男のわれわれは・・・いろいろ反省しましょう。
林真理子:皇后は闘うことにした 文芸春秋、東京、2024