難しい言葉を使わずに、治療とは何かを語ってしまう。
まさに名人芸。
精神分析の魅力:
患者にも役割があり、そこから逸脱することも理論になっている。
治療での約束を(意図せず)しない:「抵抗」(p103 意図していたら反抗だ)
話すのでなく行動する:「行動化」
患者であり続けようとする:「退行」
治療者に専門家以上の役割を求める:「転移」(p175-176 以上のまとめ方が難しい言葉を使っていない)
患者が<本当に言いたいこと>は新しい発見(として体験される)。
しかし話してしまうと、以前から心の中にあったと思い、懐かしい気持ちがある気づき。(p104 少し異論がある)
分析はフラストレーションを体験してもらい、自身の不幸を直視してもらうこと(p167)。
「治療というものがもつある種の悲しみ」
患者(青年期)に伝えている言葉:
「生きていくうえで大事なのは部分的で表層的な関係で、親友などは一生涯に一人か二人できるかで、幸運な人にできるもの。部分的表層的な関係を大事にしなさい」(p76 大人になればわかることなんだけど)
患者の言葉や心理:
援助は、するほうが、されるより気持ちがいいものだ(p37 とても大事なこと)
統合失調症の患者が秘密を保てないのは「黙っていると恥ずかしいので話してしまう」から。
見透かされているので恥ずかしくなるのが秘密を保てない理由(と成田先生はお書きになっているがピンとこない p67)。
BPD患者:自分の部屋がないか、あっても親がよく入ってきたり通っていく(p68)。
方法、工夫:
感情移入:成田先生的には「内在する」(p29、168) 師・伊藤克彦先生は「患者というヌイグルミの中に入る」(p29)
神田橋先生の経験談。
「心のオアシスになってほしい」と面接で言われ、「ここ以外が砂漠になってしまう」と返した。
感心した成田先生がさっそく面接で使うと「それでいいんです」と言われてしまった。
借り物の言葉の使い方は難しい(p103)。
週複数回の面接がうまくいっていないとする。
患者が「私のことが重荷なんでしょ!」と怒鳴ったとする。どう返すか。
「そう、週4回は本当は重荷なんです。でも、そう言うとあなたが私に見放されたと、今までのように治療を中断していまわなわないか心配で、言えなくて困っていたんです」
主語が治療者になっているのがポイント。
もう少しいうと、治療者も一人の人間として揺れているのを見せること、しかし治療中断する意図は毛頭ないことを伝えているのも重要だと思う。
「今、心細くて私のそばにいたいのですね。でも、それで私の重荷になって、私が見放すのではないかと心配なのですね」
これだと主語が患者になっている。(p287)
カンファでの工夫:
まず患者の立場できき、次に自分が治療者ならと考える(p192-193)。
そのほか:
子育ては小さな失敗の連続。
根本的なことでなければ謝らなくていい(p121)
患者が自分の理想像をうまく形成している場合は、それに及ばない自分に「恥」を感じる。
理想像がうまく形成されていないと(万能感が残っていて)恥でなく「怒り」が発生する(p79-80 かつてみた「対人緊張」の方は少なくなったが、怒鳴り散らす人は多くなった)
森田は患者に自信の対人緊張症状を率直に話していた(!p208)。
「私も子供や女中の顔を見られない。君たちとも伏し目がちだ」
とはいえ、原法は、森田の個性が大きく寄与していたらしいことを踏まえて理解するべき。
本書で繰り返されているが、私も成田先生に同感で、もうあの青年期を繰り返したくない。
成田善弘:成田善弘 心理療法を語る 金剛出版、東京、2024