源氏物語についての古今の言説をまとめたもの。
「紫式部日記」のある箇所が掲載されているが、ちょうど先週か先々週の大河ドラマのシーンに該当。
敦成親王のお食い初めで藤原公任が「若紫はいるか」と尋ねると式部が「光源氏がいませんよ」と答える。あの時、ロバート秋山演じる実資が酔っぱらって女御の袖の色を数えていたが、あれはコメディ演出でなくて実話(!)。
1000年たっても「様子が変」とかバレちゃって、恥ずかしいぞ、実資。
孝標女や俊成女は大絶賛。
四辻善成(室町時代の歌人だそう)は
一方、室鳩巣(江戸中期の儒学者らしい)は、当時の後光明天皇が源氏を「淫乱の書に相極まる」と述べたと批判(p57)。
儒学が広まり、源氏は批判されるようになった。
そりゃそうだろう。
しかし、本居宣長はさすが。
近現代に移って、内村鑑三。
へー、「新エロイーズ」のジュリは許されるんだぁという憎まれ口は別にして、同じようなことを橋純一という学者が述べている(p119)。
教科書に源氏を載せるなと文科省への請願書。時は昭和十三年。
時局柄か、そういう性格の方なのか。
田山花袋は源氏を評価しつつ、
あんなものを読んだってしょうがない。今の若い人達は皆なそう言う(p91)
と「翻案風」しか読まれなくなった当時を嘆いている(p93)。
芥川は衝撃的なことに、
僕と交わっている小説家の中ではたった二人ーー谷崎潤一郎と明石敏夫氏(p97)
しか、実際に源氏読んでいる者はいないと書いている。
そ、そうかあ・・・(その後の文章はいつもの「作家は儲からない」話なのが可笑しい)。
正宗白鳥。
筋だけ知ってどうするという田山に賛成なので、英訳の方がいいって意味が分からないし、そもそも嫌味ったらしい。
この一点で正宗のことが嫌いになりました(読んだことないけど。士郎正宗の方がいいな)。
ほかに、源氏初現代語訳は与謝野晶子が行ったとか(p84-)、和辻哲郎の「光君」「光源氏」別人説(!)とか(p111)、やっぱり源氏、好きだよね折口信夫(p125-)とか、読み込んでいるだけあって批評が具体的な谷崎とか(p137-)、全体の物語構造は破綻しているが、宇治十帖は別というさすが現代語翻訳者円地文子の指摘とか(p171)、式部の歌って下手かもという馬場あき子の議論(p190-)など、読みどころ満載。
意外なのは湯川秀樹(p150ー)。偉い学者はいろいろ読んでいる。
太宰は相変わらず(p182- 小林秀雄もいつもの小林秀雄・・・)。
いつか谷崎版にチャレンジしたいなあ。
編・解説 田村隆:源氏愛憎 源氏物語論アンソロジー 角川ソフィア文庫、東京、2023