仕事でいつも引っかかるのが「親の養育能力」。
多くの方はさらっと口にするが、これ、どうやってわかるのか。
本屋で本書のタイトルをみかけ、「これだ!」と衝動買い。
虐待連鎖はよく言われる。
しかし、単に「虐待されたから」連鎖するのではなく、虐待されると下記のようなことが「起こりやすいから」で連鎖するのである。
精度をあげて考えないと、議論が雑になるので注意しないといけない(自戒をこめて)。
前半の実例から、気になったことを順不同でメモ:
1)子どもの健康面や心理面で、何が重要で、どうすればいいか具体的知識が欠けている(数か月の乳児を数時間放置する。卒乳後、いきなり普通食を食べさせるなど)。
2)教育方法(主に叱り方)がわからない
*わからないことの劣等感の裏返しで能力が高そうに見せようとする。
3)兄弟間姉妹間差別を無自覚にしている(広い意味で上記と同じ)。
4)「自分が一番大事」な価値観をもっている親(あるいはそのような年齢の親)。
5)約束(訪問、診察など)を守らない親が多い。
6)自宅環境があまりにも劣悪(=家事をうまくこなせない。いわゆる「ゴミ屋敷」化)。
7)母親が孤立している(夫がサポートしない)。
8)夫婦間の価値観があまりにずれている。
9)子が(親が)発達障害で対応困難。
10)育児環境としては家族構成が複雑「すぎる」。
第2~5章の実際の悲惨な事件については読むのがしんどかった。
共通していたと思うのは:
A 医療、行政、福祉、県同士の連携連絡がうまくいっていないこと
B 来所、来庁するたびに子どもがあざを作っていても、「転んだ」などの親の言い分を受け入れ、事情を詳しく聞かずに帰していること
(私は3人の子持ちだが、いくら落ち着かないやんちゃな子でも、あざになるほどの怪我をそんなに頻繁にしない)
C (バカみたいだが)「2度あることは3度ある」のは本当なので注意すべきこと
D 法的理論武装が、教育や福祉現場に欠けている節があること
(「恫喝に強い恐怖を感じた」(p116)のなら、親の言う通りにする前に、脅迫罪の成立要件が頭に浮かんだかでどうかで、親への対応が変わったと思う。性善説では通らない世界なのだから)。
知らなかったこと:
児相の調査方法で、部屋の見取り図作成や写真撮影などが可能なこと。
出頭要求や立ち入り調査を、正当な理由なく拒否すると罰金が課される。
緊急の場合は、鍵を壊してまで部屋に入る権限もあるらしい(p215)。
児相の一時保護は18歳を超えても可能(p219)。
児童養護施設の年齢制限は2024年4月に撤廃(!それまで最長22歳 p222)。
児相は守秘義務を守るが、「保育園から直接一時保護になった(つまり園長が通報したのは明らか)のに、園長に連絡なしで児相が一時保護解除した」ことがあった(p227)。
ちょっと考えれば園長の立場が厳しくなるのは想像がつく。
どうして根回しをしてから一時保護解除しなかったのだろう。役所の人は私らなんかよりも優秀だろうに理解ができない。
通報したことが状況から分かってしまいそうな立場の場合は、解除の際に必ず一報してほしいと児相に事前に話しておくのが無難ということになるか。
なるほどと思った点。
高橋和巳先生のご研究:
虐待する保護者のほぼ80%が境界知能+軽度知的障害だった。
統合失調症などの重度の精神障害は、虐待する保護者のうち約5%。
残り15%が自らSOSを出す親(p248-249)。
重要なのは逆はわからないこと(知的問題のある親の何%が虐待してしまうか。あるいは精神障害のある親の何%が虐待してしまうか)。
こういう研究結果で、すぐ相関関係を逆転させて”炎上”させる人がいるので注意が必要。
最後の愛着の問題はボウルビーが戦争直後から主張していた話。
周産期メンタルヘルスと虐待問題は、つながるようでどこかズレがあると思っていたので納得。
これから考えたい。
草薙厚子「子どもを育てられない親たち」 イースト・プレス、東京、2024