文章がお上手な方の闘病記は本当に参考になる。
理屈っぽい教科書よりよほど興味深い。
大変に勉強になった点をいくつか。
うつの患者さんが嬉しい言葉がけ。
逆に疲れるのは、相手の声が大きい時(p40)。
気を付けないと。
うつの極期では「感情のない感情」「悲哀不能」になるとされるが、そこまでの方をあまり拝見したことがなかった。
先崎先生によると、確かにうつが回復しかかってから「感情が動いて」涙が出るようになったという(p75)。
やはりそういうものなのかあと納得。
普段から思っていることも再確認できた。
ご家族から「どう接すればいいですか」と質問されるとご本人に率直に「どうですか」と尋ねるのだが、たいてい「腫れ物に触れるような接し方をしないでほしい」とおっしゃる。
有名な”治りかかりの時期の危険性”。
「頭が少し働き」始めて「現実的に物事を見られるように」なり「焦り」がでてくる(p85,97)。
現実に直面する時の失望感は本当に注意が必要。
うつが身体感覚を巻き込むことは精神病理学で昔から指摘されてきたことだが、当事者の方がお書きになっていることが貴重。
私の言葉なら”落ち込み”は感情、”うつ”は身体感覚。
なるほどと思ったのが日内変動について。
夕方から夜になって回復してくることは知られているが、当事者の方にとっては
夜寝るのが辛い。
朝また不調になっているから(p95)。
本当に勉強になる。
これから注意したい。
ちょっと下世話な話だが、ありそうに思ったのが
食欲が回復した後に性的欲求が出てきた(p31)。
なるほどと思う。
その前に睡眠がとれているはずで、次いで食事がとれるようになって、最後に性。
生命の三大欲求の重要度の順番のようでもあり興味深い。
最後に希死念慮に2種類あるという(p106)。
「苦しみから逃げる」ためでなく「脳から信号のようもので発作的」にやってしまいそうなもの(「脳とこころが一体になって肉体を消したがっている」とも表現なさっている)。
これは病初期らしい(p14)。
もう一つが、現実がみえてきて絶望的になった場合(p106)。
私たちが知っているのは後者だけかもしれない。
本書で登場する先崎先生のお兄様は、高次脳機能障害業界で有名な方である。
「いつも疲れている」と書かれていて、共感するというか、とにかく「お疲れ様です」とお声がけしたくなる。
読み終わって気がついたのだが、本書にはお薬について書かれていない。
飲み心地や副作用などをどうお感じになったかも教えていただきたかった。
それはともかく先崎先生、ご自愛を。
先崎学:うつ病九段. 文芸春秋社、東京、2018.