今度は新潮文庫。
3冊でており、第Ⅲ集は戦争をテーマにしたもので既読。
今回は農村が舞台。
第Ⅱ集はパリが舞台の短編集らしい。
今度購入しようと思う。
「クロシェット(本作では「クロシェート」)」「椅子直しの女」「ジュールおじ」「帰郷」「旅路」「田園悲話」「ミス・ハリエット(本作では「悲恋」)」などが、以前読んだ光文社、岩波、河出の短編集と重なる。
面白い短編は何度でも読める。
「クロシェット」「ミス・ハリエット」は本当に飽きない。
本作では木靴を履いた貧しい農民たちの様子、要はモーパッサンの出身地、ノルマンディー地方の風俗や風景、気候がよくわかる。
曇っていて冬は寒く、湿っぽくて霞む。しかし春は美しい(らしい)。
切り立った白い岸壁。激しく波打つ海(たぶん)。
男たちは日焼けし、女たちは横幅がある体型。そして吝嗇。
本作は、皮肉めいた艶笑譚(「奇策」「牧歌」「木靴」「アンドレの災難」)、グロテスクで笑っていいのか戸惑う短編(「老人」「海上悲話」「ピエロ」)、ザ・モーパッサンな後味の短編(「酒樽」「紐」「アマブルじいさん」「田園悲話」)など多彩。
風呂に入りながら、ゆっくりと読んだ。
今回もやっぱり胸に沁みる「幸福」と「未亡人」が印象に残った。
一見、まったく違うテイストだけれども「田舎娘のはなし」もいい。
「田舎娘」はトルストイに批判されたらしい。
トルストイだともっと”理想的”な農婦象だろうけど、こっちの方が逞しさがあっていいと思う。
ラストもいいし。
モーパッサンの短編に出てくる女性はみんな逞しい。
毎日見ている「寅子」さんみたい。
寅ちゃん、頑張ってほしいなあ。
モーパッサンに戻すと、「未亡人」は引き続き<とりかえしがつかない>系。
ラストの台詞はいらない・・・。
「幸福」は、こんなにストレートな”幸福論”をモーパッサンも書くのかと驚き。
異色なのが「洗礼」。
なんとも言えない短編。
これも<とりかえしがつかない>系。
恋愛ものではなくて、生き方に関わる。
なので、読後、かなりどんよりとした気持ちに。
これもまたモーパッサン。
青柳瑞穂訳:モーパッサン短編集Ⅰ 新潮文庫、東京、1971