(つづき)
子2「あれ夢?」
「わかんない。彼の内面?同じか。要はどっちつかずな世界。クレタ人のパラドックスの話とか、生まれる前の子たちを食べちゃう鳥にも事情があったり」
子2「良いも悪いもない。あと、桐子さんが笑うと後ろの人形も笑うところで、心の中なんだなと思った」
「だね。あの世界に入る前のものが出てくるものね。マッチみたいな鞭?とかタバコみたいな煙とか、ナイフを研ぐとかさ」
子1「桐子さんかっこよかった。ドーラっぽいと思ったんだ」
「なるほど!あそこも過去作引用か。あれ、きっと彼自身だよね。傷はともかく男女がよくわからない容姿になっていたし。後ろに女性ものの服はかかっていたけど。あのエピソードも生きるために何かを殺すという話だった。死があって生がある」
子3「ヒミはお母さんだったんでしょ」
「そうそう。火は大事なモチーフだね。物語的には火事で死んだということもあるけど、お父さん的にはイザナミ。火の神を生んで焼け死ぬ。<日本の母>」
子1「私が思ったのは、あの子、あの世界のものを持ってきちゃうんじゃない。だから戻れなくなるのかなって思った。そういう神話があるでしょ?」
「え、知らない」
子1「あの世でザクロを食べて帰れなくなるの。それで太陽が出やすい時期とそうでない時期ができて、四季になったって何かで読んだけど」
「お父さんも知らない。スサノオ?ギリシャ神話?」
子1「わかんない。でも帰って来たから違うね(後で調べたらペルセポネの話だったようです)。産んでいるところを見てはいけないとか、そうかイザナミっぽいのか。産屋は学校で習った」
子2「見ちゃいけないんだよね」
「そう。あそこの、あの子が初めて言う『お母さん!』はよかったね」
子1「泣いちゃった。私の前に坐っていたおばさんも泣いていた」
「お父さんは理屈っぽく見ていたから泣くまで感情が動かなかった。子供1のほうがいい鑑賞の仕方だなあ」
子3「あなたを生むってお母さんは言っていたよね」
子1「あれも泣いた」
「泣くところだよね・・という感じなんだなあ。ダメだなあ、お父さんは。良いシーンだよね。あなたはいい子ね、あなたを生まなくてはいけないから一緒に行けませんって」
(隣で妻は涙ぐんでいる)
「ああやって、お母さんの死を受け入れて、新しいお母さんの存在も受け入れたんだよね」
子1「そうそう」
「こちらの世界に戻ったら手をつないでいるものね」
子1「そもそも夏子さんのことを嫌いじゃない」
「そう。産屋で<あなたなんて大っ嫌い>って、あれは彼自身の内面の声だから、彼が夏子さんのことを嫌っていたんだよね」
子1「それもあるけど夏子さんが出て行った時、あの子そのままにしたじゃない。慌てて探しに行くとかしない」
「ああ!そうか!全然気づかなかった。そういえばそうだね。お父さんぼーっとしていた」
子1「そうだよ。あんなに礼儀正しい子なのに。憎いんだなあって」
「うわー、父は気づきませんでした。恐れ入りました」
子2「あの大叔父さんは何してたの?」
「うーん、わかんないけど、この世界をコントロールしている<つもり>な人?神さまではないから」
子1「本読んでおかしくなったって」
「うん、理屈ばかり追求している人で、現実の世界に生きていない人?ああ・・・お父さんは胸が痛む・・・あの石さ、幾何学的なものじゃない。あれって技術じゃない。計算して人が作り出す。この絵知っている?」
子1,2「知らない」
「複雑な形と球。人間が計算して作ったものでしょう?あの人、<天から>降って来たものを人工的に作り替えちゃう」
子2「塔」
「そう。お父さんが好きな岡田斗司夫先生は<あの隕石は原子力発電所では>って言っていたけど、お父さんはその辺はよくわかんない。ただ、天から降って来た人の手が入っていない、あるいは人が触れていいのかわからないものを勝手に建物にしちゃった。技術信奉者だよね。技術で世界をコントロールできると<思い込んで>いる。空想と万能感の塊。でも彼はそっちの世界は選ばなかったのがいいよね。いえ、僕は、世界をコントロールしている<つもり>の世界には閉じこもりません、苦しいかもしれないけど、現実の世界に生きますって」
子2「かっこよかった」
「かっこよかった。面白かった」
子1,2,3「面白かった!」
「笑えるシーンはあまりなかったけど、お父さん的には大好物です。人が苦しみを通して成長する話」
妻「キャストで菅田将暉ってあったけど」
「そう!誰の声だったんだろう?」
妻「順番的には・・・。ずっと、誰?このオヤジ?っておもったけど」
「声もカメレオンかあ。すごいなあ、九郎義経」
妻「火野正平はわかった」
「え、誰の声?國村隼はわかったけど」
子1「あと制作・・・」
「そうそう!ufoteable、スタジオ地図、スタジオポノック・・・・あとどこ?日本のアニメ界総動員だったんじゃないの?子供1もそんなとこを見ていたか」
と、家族で会話が弾んだ作品でした。
一見の価値ありです。
宮崎駿「君たちはどう生きるか」 2023年7月公開
