一言。由緒正しいBildungsroman。

 男の子の、ストレートなほどの精神的成長譚。

 

 

 以下、ネタバレありなので未見の方はとばしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった」

子1「おもろしかった。思ったより分かりやすくて」

「そう、お父さんもそう思った。もっとポニョみたいな訳のわからない話かと身構えていたから。子ども2は?」

子2「おもしろかったよ」

子1「ジブリのこれまでのものがいっぱいあったよね」

「トトロ的なものはわかったけど」

子1「おばあちゃんたちいるじゃない。あの人たちの顔が、千と千尋ぽかったり、トトロぽかったり、魔女の宅急便にいそうだったり」

「ああ、そうなの?ぜんぜん気づかなかった。お父さんはあそこでもう異界に入ったぽいと思った」

子1「そう」

「うん。おばあちゃんたちが7人の小人。夏子さんは白雪姫。ただ夏子さん自身が継母だけど、まあ継母つながり」

子1「なるほどねー。あと絵の動きがすごかった。蒲団とか」

「凄かったね。お父さん的には、夏子さんと会うシーンが好き。子供1は前も枕の話をしてたけど、柔らかいもんが好きだなあ」

子1「だって難しいし」

「確かにね。で、あのシーンでさ、和服の女性が歩いているんだけど、和装の人特有の腰が左右にふれる歩き方なの。あと夏子さんがずっと袖を気にして歩ている感じとか、人力車から降りるときのバランスをとってゆっくり降りる感じとか。隣で近くに坐っている人に向かって話しかけるときに身を反らすとか。もう気持ちよくて」

子1「そう、そこまでしなくてもいいって感じだよね。でも、ああいう話って、今まであったっけ」

「そうなんだよ。あったけ」

妻「もののけ姫は?」

子1「ああ。でも今までは女の子が主人公の物語が多かったよね」

「お父さんもそう思った。ただテーマは冒頭でなんとなくわかるよね。お母さんを亡くしたら、次のお母さんが新しい命を宿している。死から生。で、人力車は招集された人の行列とすれ違う。今度は生から死。生死の話だなあって」

子3「あれ、なに?」

「昔、召集令状というのが来て、戦争に行けって命令が来たんだよ」

子3「えー僕やだなあ」

「みんな嫌だったはずだよ」

子2「あと、あの子、兄弟いなかった?」

「そう!だよね」

子1「どうだろう・・・」

「お父さんもよく覚えてないんだ。で、戦争にとられて彼一人になったんじゃないかな(ここは覚えていません。これからご覧になる人、気を付けて見てください)。で、ずーっと男の子は釈然としない」

子1「ずーっと他人行儀だものね」

「そうそう。育ちがいいのはわかるよね。後、むちゃくちゃ金持ちだけど、ああ、と思ったのが<工場>で、たぶん兵器工場で、戦争成金だよねえと思ったら途中で出てきたね。キャノピーを家にもってくる」

子3「あれ何?」

「戦闘機の部品」

子2「戦闘機の窓」

子3「ああ!」

「ああいう説明的なところは、らしくないなあと思った」

妻「あれで風立ちぬとつながるけど」

「確かに。でもあのお父さん、厭な感じじゃない?」

子1「うん。目つきがおかしい。それにお母さん死んだら、その妹とさっさと結婚でゲスやろーだなとか」

「あれは昔よくあったの。お父さん世代は辛うじてああいう人を知っているけど、普通は逆で、戦死した兄の代わりに日本にいた弟が義姉と結婚するとか。それにしてもね。あとあの大豪邸、お母さんの実家だよね?お母さんが金持ちなんだよ、きっと。そのお金で工場作ったのかもしれないね。もうごりごりの成り上がり。学校に1000円?寄付したとか札束で人の横っ面はたくみたいな。だから彼は特別扱いされているんだよね、きっと。戦争中なのに坊主頭にしてないし、何かの奉仕作業もしないで家帰っているし」

子1「あのシーンね。あの後、お父さんの気を引こうとしているのかと思ったけど」

子2「ああ、ぼくもそう思った」

「ああ、なるほどなあ。君たちだとそう思うのか。もうお父さんは、親に対して子がどういう気持ちになるか分からなくなってきているんだなあ・・・・それはともかく、最初はよくわかんなかったけど、あれ、自殺だと思うよ」

子1,2「ええ、そう?」

「自信ないけど、君たち、ケガのフリするのにあの大きさの石をあの勢いで、しかも頭に叩きつける?」

子1,2「ああ」

「しないよ。もう死のうとしたんだと思うよ。その後、高熱だして意識ないものね。相当な勢いだったんだよ」

子1「その前だっけ?寝ちゃったあの子が、海のようなところからっすーっと上がってくるのは、ああ、死と関係しているところから戻っているのかなって」

「あそこ、そういうことか。なるほど。普通に意識の底から戻ったと思ってた」

子1「そう。海って引き込まれて死んでしまいそうで」

「もともと日本人にとってあの世、常世は海だからね」

子1「そうそう。お父さんからその話を聞いていたし」

「あの映画、境界がいっぱいでてくるよね。そもそも波打ち際に彼は降り立つけど、海と地上の境目でしょ。あと門。あと大叔父のいるところは、右手が影で左手が光とか。あの大豪邸も。素通りして離れに住んでいるから。鳥もそう。あと塔」

子2「バベルの塔?」

「そうそう。地上と天空の境ね。鳥は<ここ>と<あちら>を渡る動物」

子3「あの白いの可愛かったね」

子1,2「グッズが欲しい!」

「お父さんも!あれは・・・・」

子1「らせんだったし・・・」+子2「卵子と精子。丸いし、白いし・・・」

「おお、生まれる前の命! 君たちもそう思ったか」

子3「生まれる前に死んじゃう子もいるもんね」

「そうそう。こども3、成長したなあ。とにかく生と死の境みたいなところに入り込むわけだよね」

 

(続く)