面白かった!

 本(脚本)だけ読むのと、劇としてみるのでは、印象が変わりますね。

 

 

 前半は、吉田鋼太郎さんの演出が、翻訳を読んだ時の印象にぴったり。

 下品な罵り合いで、子供の喧嘩のようなカオスな状況。

 ブランシュがずっと煙草を吸っているのも、下品さを際立たせていました(実際は、由緒正しいお姫さまです)

 

 この劇、敵味方がめまぐるしく変わるのですが、その理由が不条理きわまりなく、喜劇に見えます。

 ところが後半、実はシリアスだった。

 私は一種の喜劇と思って読み通してしまっていたので、後半のシリアスさに気づきませんでした。

 

 

 パンフレットによると、小栗さんは台本では私生児フィリップの人物像を「掴みきれなかった」と感じたそうです。

 観劇前にここを読んで、「え?なんで?」と思ったのですが、観終わって納得しました。

 

 私の中ではフィリップは、皆から距離をとり、ここというタイミングで漁夫の利を得るリチャード三世的な役というイメージでした。

 実際、中盤にリチャード三世をふまえた台詞を言います(p151 訳注)

 

 でも、違うんですね。

 彼は、先のことをまったく考えていないジョン王やイギリス貴族たちを冷静にみながら、先代獅子心王の血を継ぐ者として、イギリスを異国フランスから守り通そうとした。

 よく聞くと(後で読む返すと)、そういう台詞が多い。

 (ところで「りちゃーどしししんのう」は言いにくい言葉なので、これを早口でいえる俳優さんはさすがだなあと、どうでもいいことで感心しました)

 

 小栗さんの表情をずっと追いかけていたのですが、前半こそ時々ニヤリとしていましたが(もしくは呆れた表情)、後半になるにつれ、悲痛な面持ちになっていました。

 

 まったく見当違いな読み方をしていた自分が恥ずかしい。

 

 

 <歌う>鋼太郎さん演出は、ルイ皇太子とブランシュの婚約シーンでは腹を抱えて笑いましたが、それ以外は、ちょっとしつこかったような。

 劇が止まるし。

 死体や肉塊が落ちてくる演出は、外連味ある蜷川風で「おお!」という感じでした(パンフレットで、鋼太郎さん、蜷川風を意識したとおっしゃっています)

 

 

 なるほどと思ったシーン。

 

 私生児の「・・・のはずです」(p13)

 小栗さんの絶妙な間と台詞まわしで笑えるシーンになっていました。

 そういう台詞だったのですね。

 

 私生児が、「私生児なんかも含めて」と何度もいう(p47-48)、オーストリア公に「子牛柄の皮を着せて」と何度も口をはさむシーン(p82-89)

 両方とも小栗さんの絶妙な口舌で、やっぱり笑えるシーンに。

 

 後者は、憎々し気に言うという選択もあったと思いますが、小栗さんはさらりと皮肉っぽく繰り返していました。

 このおかげで、次の凄惨なシーン(p92)との対比がはっきりしていました。

 獅子心王はオーストリアに一度誘拐されており、オーストリア公はイギリスにとっても私生児にとっても恨みのある相手で、次の短い場は私生児がその復讐を果たしたことを示唆している。

 この明暗ある演出で、起伏がないと思われがち(パンフレットでの鋼太郎さんの発言)なこの劇にメリハリが。

 

 ジョン王がヒューバートに囁くシーン(p95-97)。

 直前の私生児への態度に引き続きのあの演技。

 一瞬、本気の人物設定なのか喜劇的演出なのか、わかりませんでした。

 でも、後ろに控えていた貴族たちが嫌悪感を顕わにしていたので、ジョン王を<ああいう人>に設定したということですね(たぶん)。

 「愛している」という日本人があまり使わない台詞を逆手にとった演出で、単純で頭がアレに見えかねないジョン王を、少しでも複雑な人物に見えるように工夫した設定なのかなと思います。なるほど!です。

 

 それから松岡訳でも「島国」になっていますが(p160、165)、舞台脚本(鋼太郎さん作)では、もう少し多く、この言葉を使っていたような(私の記憶錯誤かも)

 今、この時期に、戦争を舞台にした劇でこの言葉を聞くとハッとします。

 

 また、脚本では急に王の調子が悪くなり(p183-第五幕第三場)、4頁後には死んでしまうのですが、今回の演出では、一場前のラストに、王が吐き気を催し始めるというシェイクスピアの本にないシーンを挟むことで、”あっという間に死んじゃう”感(パンフレットで、鋼太郎さんがこの劇の難しさを揶揄するところで「王が急に死ぬし」とおっしゃっています)を薄めていました。

 素晴らしい演出だなと。

 

 王子が「陛下、ご気分は?」と尋ね、王が「悪い。(略)まずいものを食ってしまった」(p185)のやりとり。

 原語はHow fares your majesty?に王がill fareと答えているそうで(訳注)、ジョン王は「気分fare」を古い意味の「食べる」にとって、「悪い(=毒)/まずいものを食べた」の両方の意味をかけた返事をしているとのこと。 

 松岡先生によれば、このやりとりは、死ぬ間際まで冗談をいうジョン王の魅力を示しているのだそうです。

 舞台では、鋼太郎さんがすごく調子悪そうにしていて、そこに王子が「陛下、ご気分は?」と尋ねる。

 鋼太郎さんが見れば分かるだろう?的な絶妙な間と表情で、「悪い」とすぱっと答えることで、笑えるシーンになっていました。

 英語の意味など分からなくてもジョン王がお茶目になっていて、見事だと思います。

  

 ラストの台詞。

 この時期に扱いが難しい。

 若干、唐突(で少しベタな?)な終わり方でしたが、あれでよかったのだろうと思います。 

 戦争がない時代に「ジョン王」を観てみたいものです。

 

 他にもシェイクスピアの本と比べるといろいろ楽しめました。


 

 

 個人的には白石隼也さんを久しぶりにお見掛けできてよかったです。

 子どもと一緒に見ていた「仮面ライダーウィザード」の主演で、物憂げな雰囲気がある、いい俳優さんだなあと思っていたので。

 40代半ばくらいになったら、渋みのある俳優として映画などでも活躍してほしいです。

 

 

  

 

彩の国シェイクスピア・シリーズ「ジョン王」  2023年2月 埼玉