勘助は自己愛を描くのが本当にうまいと思う。
「菩提樹の蔭」は親友の娘、妙子に書いた大人の童話。
名誉や承認を求める、ナンダの分かりやすい自己愛。
謙虚さに隠れているが、自身の欲を優先してしまうプールナの分かりにくい自己愛。
その結果の悲劇。
勘助の作品では、この短編がもっとも素晴らしいと、個人的には思う。
ところで、妙子について、冨岡多恵子の推理は当たっていると私は思う。
少女時代の妙子
この短編集には「郊外 その二」と「妙子への手紙」が同時収載されている。
「郊外 その二」
当時、10歳の妙子、33歳の勘助。
大正5年12月から翌年11月までの日記の抜き書き(?)。
妙子にキスをしたり頬ずりをしたり、「中さんのお嫁さんになる」と言わせたり。
極めつけが、妙子がくわえたドーナッツを、反対側から勘助が食べる。
長く独身で、兄嫁と「クララ・シューマンとブラームスのよう」と親戚に言われながら二人で兄の看病をし、その後に倒れた彼女の看病までして、その間に知人の女児を深く愛し、兄姉が亡くなった年に50代後半で結婚するが、それが勘助の初婚だった。
本当に興味深い人だと思う。
中勘助「菩提樹の蔭」 岩波文庫、東京、1984
冨岡多恵子「中勘助の恋」 平凡社ライブラリー、東京、2000