恵比寿への往復で読了。
「アンドロマック」のオレステスのくだりを読んで、再読したくなった。
大昔、仕事に応用できないかなどという品のない読み方をしていた。
再読して驚いたのが、イーピゲネイアが生活していたタウリケーは、現在のクリミア半島だったこと。
タイムリーというと罰当たりだろうか。(解説p204-206)
またアルゴ号が向かったのも黒海だそうで(同p207)、映画でしか知らないアルゴ探検隊、中東あたりに向かったと思い込んでいた。
改めて知ったのが、母殺し後のオレステースは、復讐の女神エリーニュースに追われていて、そのために時に狂気に陥ること。(p38、132)
→ オレステースを一種のPTSDと考えるのは面白いかも
もう一つは、ギリシャではクトーン(ガイアの別名)が人間に夢を見させるようになったと考えられており、また夢は予言と同じものとして扱われていたらしい。(p20、118、解説209-210)
イーピゲネイアの物語には前日譚がある。
トロイア戦争で、妻をとられたメネラーオスとその兄アガメムノーンが船出しようとしたとき、海風がとまってしまう。
海風を吹かせるため、予言者カルカースの言葉に従い、アガメムノーンは娘イーピゲネイアを供儀にささげようとする。
その瞬間、アルテミスによってイーピゲネイアは異国タウリケーに移動させられ、アガメムノーンは代わりに鹿を殺す。
娘を殺されたことに怒ったアガメムノーンの妻クリュタイメーノスは、夫の従弟アイギストスと不貞の仲になる。実は、アイギストスも、自分の父がアガメムノーンの父に殺された恨みがあり、その復讐のためにクリュタイメーノスに近づいたのだった。二人の利害は一致し、アガメムノーンを殺す。
そして帰国したアレステースは、エレクトラ―から話を聞き、母を殺すことになる・・・・。(p13-14、解説p146訳注4)
久保田先生によれば、アガメムノーンの鹿殺しには別の逸話もあるそうで、アガメムノーンがアルテミスの神域で鹿を狩り、アルテミスを馬鹿にしたことでイーピゲネイアを供儀に差し出すことになってしまったというもので、こちらが一般的らしい。(解説p143訳注9)
いずれにせよ、父の軽率な行為が子に影響するという流れだ。
話は飛ぶ。
以前見た映画で、「聖なる鹿殺し」という大変に憂鬱になる作品があるのだが、そのタイトルの由来がようやくわかった。
映画の中で、学校の教師が「タウリケーのイーピゲネイア」の話をするシーンがある。
ということは、タイトルはこの物語の前日譚に由来しているのだろう。
それと”タンタロスの殺された子孫”の逸話(解説p153訳注4)は、話の筋と名前の類似から、シェイクスピアの「タイタス・アンドロニカス」の元ネタかと思ったが、調べると結構違いがあり、私の勘違いのようだ。
次は「タウリス島のイフィゲーニエ」を読むつもり。
久保田忠利訳:タウリケーのイーピゲネイア 岩波文庫、東京、2004