つづき。

 

 

 小倉三部作で、私が一番好きなのが「二人の友」です。

 岩波文庫で読んだ時、実在人物なのは注釈で知っていたのですが、邸宅の壁に写真がありました。

 

 

 F君(福間博)の話、特に芸者のエピソード、私は本当に大好きです。

 

 

 しかし、二人ともとんでもない。

 

 F君はある日、突然、ドイツ語教えてほしいと一文無しでやってきて、鴎外に「心中に、若し狂人ではあるまいか」と思わせている。

 しかし、鴎外が読んでいたWundの本を見事にすらすら訳した人。

 

 玉水さん(「独身」「二人の友」では「安国寺さん」)は鴎外に唯識論を教え、かわりにドイツ語を教えてもらった。

 鴎外が東京に戻ると、寺を人に譲って鴎外邸の隣に住み始めちゃった(茉莉さんのエッセイにも出てきます。安国寺さんのところにお悩み相談に行っていた奥さんをみて、鴎外が二人のことを少し疑う)

 

 

 もう一つ、常盤橋と広告塔。

 旧邸管理人さんの女性から勧められたので、行ってみました。

 

かつての常盤橋。向こう岸の左側に広告塔があります。

 

 

 「鶏」だと、

 

 司令部から引掛に、紫川の左岸の狭い道を常盤橋の方へ歩いてゐると、戦役以来心安くしてゐた中野といふ男に逢った。(p42)

 

 「独身」だと、

 

 小倉へ西洋から輸入せられてゐる二つの風俗の一つである(略)常盤橋の袂に円い柱が立っている。これに広告を貼り附けるのである(p68)

 

現在。向こう岸の写真の左側に広告塔があります(再現されたもの) 

 

 ヨーロッパではおなじみのやつ。

 

Japan Signt Association(C) HPより

 

これも再現(レンガだけホンモノらしい)

 

 鴎外は、毎日、この橋を渡って司令部まで通勤していた。

 「鴎外先生!」と胸中熱い想いで、炎天下、意味なく三往復し、私は大変に怪しい人物になっていました。

 

北九州特別ヴァ―ジョン。小倉三部作をまとめたもの。

三作とも持っているのに、つい購入。こうやってお金がなくなっていく。

 

 

 三部作、再読していくつか発見が。

 

 銘菓「鶴の子」。

 「鶏」で鶴の子をまずいというシーンがあるのですが(p20)、「独身」でも「名物の鶴の子より旨いといふので、焼芋を買はせる」(p73)という一節がありました。

 両方の作品をまとめて読むまで気がつきませんでした。

 しかし、焼芋の方がうまいって・・・・・

 

ご存知、これ。

 

 

 あと、茉莉さんのエッセイを読んでから「二人の友人」を読んで、ああ、と。

 

 

 義務心の欠けた人、amoralな人、世間で当にならぬと云ふ人でも、私と対座して赤裸々に意志を発表すれば、私は愉快を感じる(p120)

 

 初めて読んだ時、よく分からなかったのですが、嘘をつかない、裏表がないことが、鴎外にとって最も大事だったのですね。

 そう思うと「鶏」の主人公の下男たちへの態度もなんとなく理解できます。

 

 

 

 小倉のあちこちに鴎外の「鶏」の舞台と誇らしげに書いてありました。

 でも、小倉の人、あの話、誇りにしていいの・・・かな・・・とか・・・・

 ・・・・余計なお世話ですね。

 

 

 普段、こんなことしないのですが、記念スタンプを押してきました。

 

 

 もう小倉に行く機会はないかなと思ったので。