信田先生の本で勧められていた映画。

 

 見ることはかなわないだろうと思っていたところ、本当に偶然から鑑賞できた。

 

 

 

 ある刑務所。

 そこで、希望者40名と絞られているが、自身の加害性と被害者の心情を学ぶためのプログラムが行われている。

 Therapeutic communitiy(日本語訳がまだないらしい。以下TC)という1960年代から欧米で行われ、一定の効果をあげている方法だという。

 

 この映画、取材許可までなんと6年(監督さんによれば、途中で企画書の書きなおしなどがあり大変だったという)、さらに2年間の密着、また編集も難航し、なんとか公開という時に例の流行り病になったという。

 8年間も一つの仕事にかかりきりになった、そこまでの熱意は何か。

 

 監督さんは、当初、TCについて半信半疑だったらしい。

 そんないい方法があるかと。

 しかし、実際に見学して考えを変えたという。

 

 

 私が驚いたのが受刑者(プログラム受講者)の言葉の豊富さだった。

 

 受刑者の一人がファシリテーターをするワーク。

 発言が集まってもファシリテーター(繰り返すが、彼自身が受刑者である)が「表面的な発言が多い。~を反省しているって本当か。僕はそんな気持ちになれない」という主旨の発言を容赦なくしていく。

 

 スタッフが「負の感情を抱えていかないとね」という。

 すると受刑者が「抱えるって、具体的にどうすればいいんですか」と尋ねる。

 

 観念的で抽象的な決まり文句は出てこない。

 むしろスタッフがそういう言葉を使うと、受刑者が具体的な次元に落とし込もうとしている。

 

 決まり文句は徹底的に明細化を求められる。

 ロールプレイのワークで、加害者が加害者役で被害者役のピア(=プログラム参加中の受刑者)から怒りや恐怖感などを投げつけられ、加害者役はその都度、説明しなくてはならない。

 

 「償いたいと思っています」

 「償いって具体的にどうするのですか?」

 

 泣き始める受刑者。

 「何の涙ですか?」

 

 

 

 監督さんによれば、案の定、最初はみんな無表情で発言もしなかったという。

 しかし1か月くらいすると表情も言葉も変わる人がいるとのことだった。

 

 ある受刑者は「自分は言葉を知らなすぎる」と辞書と本を買ってきたという。

 そして「TCで言葉をたくさん持てるようになった」と。

 

 言葉がないと人は考えられない。

 言葉がないと感情を細やかに感じられない。

 たとえば、喜怒哀楽全てを「ムカつく」や「ヤバい」と表現するなど。

 

 

 もちろんTCが完璧なわけではないだろう。

 脱落する人や悪用する人も少数ながらいるという。

 

 とはいえ、現行の刑務所の方法で十分だとは思わない。

 作業をやらせて資格取得を勧める、つまり「娑婆に出て仕事を得なさい」という社会復帰モデルだけではうまくいかないのではないだろうか。

 

 私の個人的な考えだが、たいていの仕事は人間関係のネットワークから得るものと思うからだ。

 もちろん職場内の人間関係も重要。

 だから人間関係の作り方と人間関係の質の評価の仕方を学ばなければ、闇雲に社会復帰しろといっても意味がないだろうと思う。

 

 たとえ資格だけあっても、適切な人脈にアクセスできなければ、最悪、反社会的組織に巻き込まれかねない。

 またそのような場合、即座に逃げることを選択することができるかも、人間関係の質に自覚的であることが必要だろう。

 というか、体験談としてこのようなことが映画内で語られていた。

 

 

 

 今後、仕事に役に立ちそうなこと。

 

 ある受刑者。

 「自分の犯罪では被害者の気持ちがわからない。でも他人の事件では被害者の気持ちがわかる」

 

 

 

 私の中の宿題。

 

 男のPTSDと暴力の関係。

 もう一つ。

 暴力と解離はよく指摘されるが、「誰かを殴っている感覚が”フラッシュバック”する」という発言。

 異物として侵入しているということは、暴力が本人にとって違和感のあるものとして体験されているということであろう。

 そして、私たちはそのような言葉を引き出せるだろうか。

 

 

 
 

 専門が何であれ、メンタルヘルスにかかわる者は必見。

 何かヒントがあるはず。

 

 

 

坂上香 監督・撮影・編集「PRISON CIRCLE」 日本公開 2019年