RCTについて、基本から学びたいと思い購入。
現在、何が効果的かを検討するのに、これほど強力で確かな方法はない。
驚いたことに、RCTは様々な分野で用いられていた。
経済学(第3章)
教育学(第5章)
犯罪学(第6章 修復的対話に触れている)
貧困問題(第7章)
農業、企業活動(第8章)
政治、慈善活動(第9章)
「セサミ・ストリート」は、視聴者を対象にしたRCTの結果で内容を調整していた(p70-72)。
GoogleのツールバーやAmazonのHPの色もRCTで決まっていた(p144、157-158)。
政治については概ね有効な結果はないという(p171)。
政治問題までRCTで調べるのは、何でも数値化して計算しようとする過剰な合理性のように思う。
好意や決断を計算するって、いささか「下品な発想」ではないか。
本書の例で改めて思ったのが、期間設定と評価選択の難しさ。
幼児教育の研究。
10代までにIQで差がでた。
ところが年齢があがると差がなくなった。
代わりに「職を得ている」「ドラッグ依存者になった」で差がでた(p75)。
この研究が10代で終わる計画だったら「IQに差が出た」という結果で、成人まで追いかける計画だったら「IQに差は無し」になる。
さらに評価項目にIQ以外のものを含めなかったら「早期学習は意味なし」になるが、今回は組み込んでいたので「意味あり」になった。
逆の結果が出てしまう。
RCTの過信はデータ活用を間違える(p229)。
そのほか。
オープン試験の場合だと、非介入群が別の何かを行って結果を混乱させることがある(p211-212)。
RCTと倫理の問題(p67-68、107-108、130、203)。
ある介入が効果あると確信しているならRCTを行うのは非倫理的(p108)。
しかし効果の有無に確信がなく、かつRCTを行うことが可能なら、RCTしない方が非倫理的である(p108)。
歴史初の比較対照実験。
旧約ダニエル書。
ダニエルはバビロンの王から豪勢な食事を勧められたが断る。
死ぬと脅されたダニエルは「自分たちは野菜を食べる。年齢と人数が同じ若者に肉を食べさせて比べてくれ」と頼む。
10日後。
ダニエルたちの方が健康だった。
以後、菜食が認められた(p25-26)。
RCTの有効性を調べるRCTが行われている(!p234)
コクラン・レビューに名前を冠されたコクランの逸話。
若きコクランは軍医として戦場へ送られた。
手を尽くしても死んでいく戦友や捕虜たち。
コクランは無力感に打ちひしがれ、戦後に彼は自身の研究の方向性を決める。
様々な治療のRCTを集約し、共有財産にするべきだ。
それが現在のコクラン・レビュー(p31-32)。
もう一つ。
捕虜が瀕死の状態でコクランのもとに運ばれてきた。
手元に何もない。コクランは捕虜の言葉を話せないので、安心させる声がけさえできない。
苦痛で叫び続ける捕虜。
「とうとう私は、何も考えずにただ寝台に腰をかけて、彼を腕に抱いた。するとたちまち叫び声が止まった。数時間後、彼は私の腕の中で安らかに死んでいった。彼を叫ばせていたのは肋膜炎ではなく孤独感だったのだ。死を迎える人々の看護について、大切なことを学んだ体験だった」(p32)
コクラン自身は数値だけの人ではなく、行動の人だった。
コクラン・レビューのHPにこの逸話をぜひ載せてほしい。
アンドリュー・リー「RCT大全 ランダム化比較試験は世界をどう変えたのか」 上原裕美子訳
3200円+税
みすず書房
ISBN 978-4-622-08933-9
Leigh A: Randomistas How Radical Researchers Change Our World. Black, Victoria, 2018