副タイトルは「なんとか3m」、いえ、「なんとかsans maitre」という曲を作った方の発言をちょっとかえました。

 

 

 先日の伊藤野枝さんの本の紹介ブログでも書きましたが、保守というのは単に伝統墨守ではない。

 「ぜんぶ、がらがらポンだ!」「これまでの制度は悪だ!ぶっ壊せ!」という乱暴な「革新」に対して、「いやいや、これまでにもいい所があったでしょう?でも確かに悪い所はあるから、しっかりと調べて、無理せずに変えましょう」という態度ですね(と私の元ネタの故・西部邁先生はおっしゃっていました)。

 

 私はそういう意味では保守です。

 

 最近、ネットなどを見ていて、ネトウなんとかとか、パヨなんとかとか、リベラルとか、ネオ・コンとか、私からすると区別がつかないのです。

 まま、私が政治音痴なだけなのでしょう。

 

 ある法律をぜんぶひっくり返せと主張したら、それは革新ではないでしょうか(世間的には保守または右翼?てか右翼と保守って同じ?)。

 ある法律を絶対に変えるなといったら、それは・・・・言葉が見つからないのですが、差し当たって伝統主義(?)ではないでしょうか(世間的にはリベラル? でもリベラルって自由、寛容という意味ですけど・・・。ちなみに先に触れましたが保守でもない)。

 

 もうやめます。

 

 

 さて、クラシック音楽の歴史を変えた偉大な作曲家ベートーヴェン。

 彼も突然変異のように出現したのではない。

 しっかりとした伝統の上に生まれたのだという、私の大好物な話が本書です。

 

 私の好きな言葉が鉄血宰相ビスマルクの名言。

 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」

 何ごともまずは先人の偉業を学ぶことから始めないといけない。

 

 「独創的」「無からの創造者」「完璧で絶対的な想像主」とされてきた(p2-3)ベートーヴェンも、実は大変な勉強家だった。

 てか当たり前な気もしますが、「孤高の天才ベート-ヴェン像」が流通したのは、もっぱら弟子(?秘書?)のシンドラーの責任のようです(後述)。

 

 ベートーヴェンにもいわゆる師匠はいたのですが、そういうレベルの話ではもちろんない。

 それなら当世風の音楽しか作らなかったでしょう。

 

 彼はバッハとヘンデルの作品を好んで研究していた。

 当時、バッハとヘンデルは忘れられていた。ただ、徐々に見直されてはいた(p6-7)。

 とはいえ、やはり一部の好事家にしか知られていなかったのだと思います。

 本書は、ベートーヴェンが「古臭くて忘れられていた」音楽を熱心に研究し、「革新」(に見えるけど、実は伝統に乗っかている)音楽を作り上げていった、その経緯を丹念に追いかけたものです。

 

 本書、楽譜をお読みになれる方は特に楽しめると思います。

 私はいちいち、「えーと、これはド。えーと、1,2,3・・・ここがミ?」みたいな感じなのでからっきしダメでした。 

 いいなあ、読譜できる方。

 

 

 まず第一章は、当時のバッハ、ヘンデルの演奏状況。

 意外と演奏されていたようです(特にヘンデル)。

 とはいえ、回数は少ない。

 今なら「おお、シェルヘン編曲のフーガの技法と、ウェーベルン編曲の6声のリチェルカーレをやるのか!行かなきゃ!」みたいな感じでしょうか(たぶん違う)。

 

 第二章、第三章はベートーヴェンが、当時ようやくぽつりぽつりと出版され始めたヘンデル、バッハの楽譜を研究していたという紹介。

 ベート-ヴェン蔵書のバッハの「平均律集」には書き込みがあり、フーガを熱心に分析していたと推測されるのだそうです(p59-61)。

 で、悪評高いシンドラーがベート-ヴェンに対するバッハの影響を過小評価した文章を残し、「孤高の天才像」を作り出そうとしたことが、ここで指摘されています(p62-63)。

 

 とりわけ第四章では、音楽家の勉強とはこういうことか!という、バッハらの楽譜の筆写、抜き書き、さらには編曲の試みなどをベート-ヴェンが繰り返し行っていたことが述べられています(p84-85)。 

 

 へぇー!と思ったのが、ベート-ヴェンが「ハンマークラヴィーア・ソナタ」作曲時、バッハの「平均律集」を参考にしていた形跡があるのだそうです(p74)。

 私はあまり聞かないのでわかりませんが、ファンの方、いかがですか?

 なるほど!って感じですか?

 当たり前じゃないのーって感じですか?

 

 で、特に「平均律集」に焦点を当てたのが第五章で、この曲がどのようにベートーヴェンの作品に影響を与えたか、譜面を比較して論じられています。

 ああ!譜面が読めない!悔しい!
 

 あとはヘンデルからの影響(第六、第七章)、さらに大曲「ミサ・ソレムニス」がバッハの「ロ短調ミサ曲」から影響を受けたかいなか、あるいはヘンデルからはどうか・・・・で、本書は締めくくられます。

 答えの方は、ぜひ、本書をどうぞ。

 

 

 「ミサ・ソレ」がバッハの影響・・・て、私はいまいち飲み込めないのですが、ヘンデルの影響があると言われればなんとなくそうかなあという気がします。

 どうなんでしょう。

 正直、私にはやかましくて(← お好きな方、すいません・・・)あまり聞かない曲なので・・・・・

 

 

 

 

 あ、ちなみに本書、もともと博士論文だったそうです。

 こういう面白い視点の研究は、どんどん頑張って続けていただきたいなあと思ったりします。

 今、求められている(らしい)「実用性」とか「収益性」満載の研究では全くないですが。

 

 でもですね、実用性とか収益性みたいな、所詮、短期的で、泡のごとく消えていくようなものではない、このような御研究こそ、真のそれだと私なんぞは愚考いたしますが。

 

 ・・・・・なんて言っても、エライ先生方には届きませんけどね。 

 

 

 ああ・・・・仕事が大変だったし、疲れたな。

 早く帰ります。

 

 

 

  

 

 
越懸澤麻衣「ベートーヴェンとバロック音楽 「楽聖」は先人から何を学んだか」 

2300円+税

音楽之友社

ISBN 978-4-276-37113-2