子供たちがマンガとウルトラマンの本を買いたいというので、「パパは何も買わないよ」と自分に言い聞かせて本屋に行ったら・・・
ああ、また見つけてしまった・・・
松岡和子先生訳のシェイクスピア新刊。
ボリュームも気晴らしにちょうどいい。
手に取ると、ああ、面白そう・・・・・と、結局、購入。
帰宅して読み始めると、面白い、面白い。止まらない、止まらない。
すぐに読了(そんなに複雑ではないですが、一応系図を書きながら)。
私は高校時代になぜか古代から中世の西欧戦史にはまり、今はなき「世界の戦争」(全10巻 講談社)の第1、2、5、7巻(ギリシャ時代から100年戦争まで、とんでナポレオン戦争)を通学電車内で夢中になって読んでおりました。
100年戦争愛、というか、薔薇戦争愛、というか、ジャンヌ・ダルク愛、って、全部同じですけど、で、一時、英仏戦争関連の本を読みあさっておりました。
しかし、仕事を初めて幾星霜。
すっかりご無沙汰に。
最後に読んだのは、佐藤賢一さんの「英仏百年戦争」(集英社新書 これはおすすめ)。
本書は、リチャード獅子心王(リシャール)死後に起きた継承戦争が舞台。
映画好きの方はご存じ「ロビン・フッド」の時代のイングランドです。
恥ずかしながら、私はジョン王のことを知らなかったのですが、佐藤さんの本を引っ張り出すと100年戦争の前史として、「残虐さと好色さ」の限度を知らない「ジャン王がアルチュールを暗殺した事件」が有名と(p49)。
おお、まさにこの部分です。
四男で欠地王子Sans Terreだったのに王位が転がりこみ、結果として失地王Lacklandになってしまった経緯を描く。
要は叔父さん(ジョン王)と甥っ子(ジョン王のお兄ちゃんのジェフリー公(ジョフロワ)の息子アーサー(アルチュール))との諍いから始まる英仏戦争です。
というか、当時は英仏もへったくれもないのでアンジュー帝国内紛争ですが。
日本だと壬申の乱と同じ構図https://ameblo.jp/lecture12/entry-12584299304.html?frm=theme。
中身は全然違うけど。
訳者の松岡先生は、この劇は「言葉が武器」になっているとお書きになっていますが、私はこれ完全に喜劇じゃないかと・・・。
親戚同士の単純な口喧嘩が延々続いて、もういい加減、その辺でやめておいて何か陰謀でもめぐらせたら?という感じです(p40のあたりとか、p53のあたり)。
で、ずっこけるのが、交渉決裂で(というか口喧嘩で勝敗が決まらず)、すわ戦争となるのですが、なんと戦闘の勝負がつかずに終わる(!どうやって終えたんだ? p52)。
で、客に向かって独白する事実上の主人公の私生児フィリップ(Philipe the Bastard 英語だとかっこいい!)に、「最後まで戦えばいいのに」と突っ込まれたり(p53)。
そうだ、そうだ。
その後、権利争いの対象だった都市を英仏共同で攻めることになったり(p56 ええ!なぜ!?・・・ですよね。はい、どうぞ、本書を)、その後、本末転倒な交渉が成立したり(p64 具体的な内容は・・・はい、どうぞ、本書を。読んでいてひっくり返ります)。
で、そこにローマ法王の使節が来て、話がややこしくなる。
どうするか決意を迫られるフランス王フィリップ。
一言、「困ったな」(p84)。
・・・・ええ!そこ困るとこ??
万事がこんな具合です。
第四幕第一場は俳優さん的には見せ場だと思いますが、これも演技の仕方によってはねえ。
で、同第三場の出だし(p141)・・・これ・・・笑うとこですよね・・・シェイクスピア先生・・・・。
帯の文言。
「決断はすべて裏目に」
おお、史劇らしくかっこいい!
帯を見て、優柔不断の私は「決断の重要さを知りたい」と、結構真面目な気持ちで読み始めたんですけど・・・・・。
私が帯に文言を乗せるとすれば、「みんな、もっと考えてから話そうね!あと、高いところは気を付けよう!」です。
とはいえ、笑いながらの読書で、よい気晴らしになりました。
なので、宮廷内で権謀術数が駆使される、どろどろの宮廷史劇をお求めのあなた。
・・・・・お勧めしません。
てか、演劇で観たい!
あとがきによると、彩の国さいたま劇場でやっているシェイクスピア・シリーズの今年の演目だったのだそうです。
ところが、今回は例の一件で延期になったそうな。
来年以降にやるのかなあ。そうなら、観に行きたい!
どういう演出にするのかなあ。
ちなみに、訳注が充実していて、人称の細かな変化もきちんと注がついています。
本書だけで立派な演劇用台本です。
ところで訳者の松岡先生といえば、「深読みシェイクスピア」(新潮文庫)も絶対にお勧めです。
特に蒼井優さんのエピソードは鳥肌もの(p154-167)。
優れた女優さんは、おそらく英文学者さんがあれこれ議論しているようなところを直観的に理解してしまうのだなと。
あと、全然関係ないのですが「狂人」をBedlam(ベツレヘム病院が語源 p41。もっとも伝統ある精神病院)といっていたらしいのですが、ここで、ああ!と。
スティーブン・キング原作の「シャイニング」で、「Redrum」という言葉が出てきます。
これ、何かの言葉にかけているんだろうなあ、でも「赤いラム酒」って禁酒法時代の何かか?とかれこれ30年以上、疑問だったのですが、ようやくわかりました。
たぶんですけど、英語圏の人なら<レドラム>で<ベドラム>(rとlは別ものだけど、母音も音節も同じだし)を思い浮かべるのかもしれない。
あのストーリーなら、「狂人」と意味が近い言葉を、あんな風に書かれたら、確かに気持ち悪いし。
また私の妄想ですが。
・・・で、なんだっけ?
そう、「ジョン王」。楽しみです。
なんと、私生児フィリップは小栗旬さんが演じられるそうです。
彩の国シリーズ「お気に召すまま」以来、劇でお見かけしていません。
あの時は正直、吉田鋼太郎さんしか印象に残らなかったけど・・・・。
当時のグローブ座のように女形という演出だったので、共演が女装だった成宮くんという、なんというか、ちょっと微妙な・・・・(← 語弊あり)。
松岡和子訳「ジョン王」
900円+税
ちくま文庫
ISBN 978-4-480-24532-4
Shakespeare W:The Life and Death of King John.