音大。

 憧れです。

 電車なんかで、楽器用ケースを抱えている人を見ると、うっとりと眺めてしまいます。

 きれいなお姉さんが、ヴァイオリンのケースを背負ってさっそうと歩いているのに出会うと(黒髪、ロングヘア率高し)、「あれ、今日の星占い、おれ、一位だったっけ?」みたいな。

 

 てか、楽譜が読めて、楽器ができるのに憧れます。

 私はギターだけは弾けますが暗記した3曲しか弾けず、弾きはじめると3曲の永劫回帰になるので家族からは大変に不評です。

 

 

 さて、仕事で何回か行ったことのある藝大以外は、まったく未知の世界。

 しかし、都内には音楽を学べる大学が意外にあることにまず驚き(p20-21)。

 音大で私が思い浮かべるのは、藝大以外だと桐朋、国立ですが、それ以外にも、武蔵野(美大以外に音大もある!)、東京音楽、昭和、東邦、洗足、尚美・・・といくつかあるのですね。

 知らなかったのはお茶の水大でも音楽を学べのだそうです。

 

 特に洗足学園音大のアメニティーの良さには驚愕(第四章)。

 溝の口駅から、モダンで美しい建物が見える。

 それが洗足学園。

 

 ところで溝の口って、田園都市線と南武線の交差した駅ですよね。

 私が小さいころ、南武線は貨物の鉄道というちょっとアレなイメージだったのですが、今は、だいぶ変わったのでしょうね。

 あの小汚な・・・ええっと、味わいのある町だった武蔵小杉が、今やあんなですから。

 

 で、洗足学園ですが、「のだめカンタービレ」の撮影現場だったそうな(p125)。

 中に入ると、天井にはシャンデリア(!)、そして北欧の照明(!!)、アルネ・ヤコブセンの椅子(・・・・?誰ですか?)と、とんでもなくおしゃれな空間になっていると(p125-126)。

 学食にはマルゲリータやクアトロフォルマージュなどのメニューがあり、庭にはベーグル屋さんがあるとのことです(p128)。

 うーんと・・・・ベーグルって、あのべたべたしたドーナッツですよね(はいはい、違いますね)。

 えーと・・・・クアトロフォルマージュというのは、イタリアかどこかのアクセサリー・メーカーの名前でしょうか?(はいはい、ピザですね)

 

 

 話を戻して、本書。

 一見、華やかな音大生さん。

 でも、理系学生なみに勉強に追われ(考えてみると死ぬほど練習しないといけないし)、結構地味な学生生活を過ごしていることがわかります(第五章)。

 非常に共感。

 

 一番、楽しみだったのが第3章の音大生の日常についての箇所です。

 ここは本書でも一番「おいしい」ところでしょうから、あまり書かないようにします。

 本当は楽器別、学科別のキャラクターとかそれぞれの「あるある」が書かれていたら面白かったのですが、その辺の深追いはなくて、それに相当するのは音大生さんの恋愛事情でしょうか。

 

 素人的に、きっとおもてになるに違いないと思っていた声楽科。

 確かに華やかなのですが、意外に楽器の人の方がもてるのだそうです(p71)

 音大の中でも高嶺の華感があるのでしょうね。

 あとキャラが濃そうな感じも・・・。

 何しろオペラで主役はったりする人たちですからね。

 実際、声楽科は色恋沙汰がすぐに広まると(p71)。

 もうオペラの世界そのままに恋愛するのでしょうか?

 刺したり刺されたり、毒もったりもられたり、銃で撃ったり撃たれたり、あと飛び降りたり(嘘です)。

 

 意外なのは、カラオケで歌唱力抜群かというとそうでもなくて、「むしろ声楽科が一番音痴です。やたら声のいい音痴」(p78)

 いや、それ、むしろ聞いてみたいです、「声のいい音痴」。

 理由は書かれていないのですが、「あの歌い方」(オペラ風な。なんと呼ぶのでしょう)でないとうまく歌えないのでしょうか?

 確かに、あの「わーたーしのーはかのまえーえでーなかないてーくだーさいー」の歌い方で、髭ダンとか聞きたくないです。

 

 あと音大全体として男子は少ないので、男はもてもてだそうで、羨ましいっす(p71)。

 でも、「変な人」が多いと(p73-75、140-142)

 

 とはいえ、モテモテなのは、どの楽器か(どの科か)。

 

 ・・・答えは、テノールとチェロ(海外の場合 p119-120)。

 あとトランペット(p114)。

 

 なるほどと思ったのが、「テノールやチェロの音域は、一番快感を感じる音域」(p120)だと。

 個人的にはバスは好きなのでテノールはぴんとこないのですが、チェロの音が心地いいというのは肯けます。

 というか、落ち着きますよね。

 

 すでに書きましたが、本書が全体的に残念なのが、もう少し音大生さんたちの楽器や科ごとの個性の違いやそれぞれの「あるある」なんかを深堀してほしかった点です。

 恋愛事情にしても女性目線のエッセイなので「どの科の男子がもてるか」は書かれているけど「どの科の女子がもてるか」がなく、これも残念。

 

 私はオーボエが好きなので、オーボエ女子のキャラとか知りたかったなあ。

 ただ個性のことでわずかに書かれていたことで意外だったのが、「バスやバリトンは偉ぶっている人が多くて変わっている」(p74)。

 本書で「変わっている」はもはや枕詞かと見まごうばかりの頻出語なので横に置いておくとして、バスやバリトンがエラそうって、どうしてなのでしょうか。

 主役はたいていテノールだし。

 

 

 最後。

 藝大に通称「藝大おじさん」という方々がいるそうです(p94-99)

 まだ学生のうちから贔屓にして学内演奏会などで一番前の席で必ず鑑賞したり、写真とったり、声をかけたり、中にはストーカーのようになる輩もいるそうで・・・・・

 音大生さんも大変です。

 おかしかったのが、風貌が「オタみたいな感じか、セレブなおじさまに二分される」(p96)。

 わかるなあ。

 

 ・・・・おお、見えるぞ、私には見える。

 シャツをズボンにインした「オタな方の藝大おじさん」として、女子学生さんたちにキモがられている自分が・・・・・

 

 どうやったら見かけだけでも「セレブなおじさま」になれるのか、誰か私に教えてください。

 

 先日、私が着ると「それ、豚のマーク?」と言われるブルックス・ブラザーズの店に、ジャケットを購入しようと思い切って入りました。

 そしたら、おそらく私よりも年上の店員さん(ロマンスグレーで口髭をなさり、ジャケットの胸ポケットにはハンカチーフが見えている)の、あまりにもダンディーな雰囲気に気圧され、あと、私の被害妄想でしょうけど、上から下までさっと私の服装を確かめられた気がして、妙な汗を垂らしながら気もそぞろにジャケットを見ているふりをして、結局、そのまま帰宅しました。

 

 

 おそらく、セレブ感のかけらもないままに生涯を終えるのだろうなあ。

 まま、セレブになりたいかと言われると、そんな気持ち、さらさらないんですけど。

 

 ところで、このブログを書いた時のBGMは、テンシュテット指揮のブルックナー3番と、BCJのベートーベン9番という無茶な選曲でした。

 文章が支離滅裂だったら、そのせいです。すいません(← ただ能力がないだけ)。

 

 

 

 

 

辛酸なめ子「愛すべき音大生の生態」

1300円+税    192ページ

PHP研究所

ISBN 978-4-569-84679-8