ある講習会で知った方法。
名前は「マイクロ」だが、要はカウンセリングの共通基盤をまとめたもの。
精神療法の根幹が何かを知りたくて勉強してみた。
以下、備忘録。
この方法、かなり自由度が高い。
本書の付録のDVDに「よいカウンセリング例」「悪い例」があるが、これらは教育用の作りのため、対話としてはかなり人工的というか、ぎくしゃくしている。
しかし、本書巻末で、おそらく本法を使った実際に近い逐語録があり、これはとてもスムースできちんと言葉のキャッチボールになっている。
本書で共感したのが3点。
「技法」以前の、もっとも大切なことが繰り返し、きちんと強調されている。
相手の事情をしっかりと聴くこと。早わかりしないこと。
その上での「技法」であって、そうでないとどのような技法だろうと治療者の自己満足に終わる(p81など)。
「肯定的資質の探究positive asset search」(p3-4)。
要は患者さんの「いいところ探し」である。
この技法を作り上げたIvy先生は「人は長所から成長する」と考えているという(p42)。
「関わり行動」がもっとも根本にある(p2)。
要は非言語的なコミュニケーションである。
視線、態度、声のトーンや速さ、話題を唐突に変えないこと(本書では「言語的追跡」)が重要という指摘だ(p5-6)。
ほかには、例外を考えていただく(p62)、問題をなくするよりもうまくいくことに焦点をあてる(p63)、「どうして」「なぜ」を使いすぎない(p153-154)などが指摘されている。
また本書で「対決」と訳されているconfrontation(p11、p63)。
通常は「直面化」だ。
「対決」は「態度、考え、行動の不一致を指摘すること」と定義されている(p63)。
ただ「不一致の指摘」というのは、微かに精神分析の考え方を引きずっている感じがする。
ところで「直面化」だと、患者さんに「問題点」「病理的部分」を提示するという、やや強めのニュアンスがある。
Con-frontationは、治療者が疑問に感じたことを「一緒にcon-考える」という訳はどうかと個人的には思う。
面白いのが、マイクロカウンセリングでは自己開示や情報提供、助言を厭わない点である。
とても自由があり、対話が自然になる。
ただし、自己開示はあくまで「患者の問題と共有できること」(p44)という制約がある。
さらに「フィードバック」(p52)、相手の様子がどう見えているかを具体的、率直に、治療者が患者さんに伝えることが技法としてあげられている。
私は、これは怖くてできないと思った。
本書の例では「あなたの笑顔は素敵よ」(p73)と「フィードバック」する例があげられているが、これは患者さんとの距離を縮めすぎてしまうのではないか(もっとも、女子高生と女性スクールカウンセラーの相談例なので、その場合はありかもしれない)。
そもそも話すことに集中している患者さんに、治療者が発言内容ではない言動レベルの指摘をするのは感情的動揺を起こさないだろうか。
これは、むしろネガティブなことを拾うにはいいかもしれない。
「御心配ですか?」とか「腑に落ちないご様子ですが・・・・」など。
宿題2点。
「対決」を受け入れなかった患者さんに対しては、事情を聞く方に切り替えるという指摘(p100)。
たとえば治療者「ここが引っかかるのですが」と伝えても、患者さんが「特に何とも思っていません」とお返事をなさったら、治療者がしつこく「いやー、問題だと思いますよー」と強弁しても、ただの押しつけだ。
こういう場合、おそらく事情をしっかり把握し損ねている、もしくは患者さんがまだ「十分に聞いてもらって理解してもらった」という感覚を持てていない、あるいはこの問題を持ち出すのは早すぎたと考えて、いったん引く。
これまで、三番目ばかりを考えていた。
しかし、三番目も治療者の内面では患者さんに考えを押し付けているといえる。
まずは一番目や二番目の可能性を考えるべきなのだ。
気が付かなかった。
反省。
もう一点、気を付けようと思ったのが「意味の反映reflection of meaning」(p12)。
「あなたにとって・・・が大事なんですね」や「あなたにとって、それはどのような意味を持っていますか」などである。
前者はすでに使っていると思うが、後者は使った記憶がない。
「意味がありますか」では、使うタイミングによっては言外に「意味は無いのではないですか」と言っているようなので、「意味を持っているか」以外はあまり使えない難しい言いまわしだ。
しかし「意味」は重要。
ボキャブラリーになかったので、頭の片隅に入れておきたい。
ただ言い回しが難しい・・・・。
マイクロカウンセリングの特殊性であり、勉強し甲斐のある点と思ったのが、意図性Intentionという概念(p102)。
要はmotivationのことと言ってもいいが、患者さんの意図性のレベルに合わせて、対応を変えることが推奨されている。
意図性が低い順に、積極的に指示する→対決(直面化)や助言をする→対決して、あとは傾聴と促し(本書では「はげまし」。おそらくencourageの訳語だろう)→ほとんど傾聴と促し・・・である(p102-125)。
非常に実践的。
「もう駄目だ!」とパニック状態の方に(意図性のレベルの低い方に)、「あなたは、もうだめだと感じているのですね」と返しているようでは何も進まない(本書p104の例)。
「まずは落ち着きましょうか。・・・・どのようなことが起きたのか教えてくださいますか」などと対応を切り替えなくてはならない。
また、p203-204のチェックリストは、実際に使うかどうかは別にして面接の振り返りに最適である。
福原眞知子監修「マイクロカウンセリング技法 事例場面から学ぶ」
3500円+税 224ページ
風間書房
ISBN 978-4-7599-1637-9