天才、清水ミチコさん。
私が好きなのは「XX作曲法」シリーズで、特にスピッツ・バージョン。
どう聞いてもスピッツの新曲。
歌詞も秀逸。You tubeで見れますが、何回みても大笑い。
あとは瀬戸内寂聴の物まねの毒の混ぜ具合!
NHKの音楽番組だったかで披露されたモーツァルト風に即興演奏するネタもハイ・レベルだったが、演奏が終わった後に恥ずかしそうになさって、カメラに顔が映らないように反対を向いて口のあたりを手でおさえているご様子が、とてもチャーミングで「かわいらしかった」のも印象に残っています。
さて、清水さんが、お知り合いの方々と鼎談するという企画。
その人選が豪華!以下、敬称略。
南伸坊、YOU、大竹しのぶ、三谷幸喜、林のり子、吉本ばなな、甲野善紀、養老孟司、野沢直子、藤井隆、蛭子能収、五月女ケイ子、井上陽水、山下洋輔、きたやまおさむ、一青窈、ナイツ、森山良子、矢作兼、椿鬼奴、泉麻人、辛酸なめ子、池谷裕二、能町みね子、デーモン閣下、中野信子、青木さやか、山口もえ、鏡リュウジ、名越康文、浅田美代子、友森玲子、光浦靖子、森山直太朗!!
すごくないですか?
本屋で見つけ、即買いです。
私的には、北山修先生、ナイツ、辛酸なめ子さん、光浦靖子さんあたりに期待大で読み始め、面白くて、そのまま数時間で読み終わってしまいました。
ああ、もったいない。
鼎談ですから話題は多岐にわたりますが、婦人公論の連載ということもあるのか、「夫婦について」が底流にある鼎談になっています。
筋がない本なので、印象に残ったことばを。
ちょうど、今日は仕事で教育について考えていたのだけど、以下の言葉はとても共感。
「基本」を教えて、それを身につけさせようという教育システムは問題がある(甲野さん p60)。
学問もそうで「結局、独学をやらないとだめ」。そして、学びの中で「基本」を自分でみつけるべき(養老さん p60)。
そうやって「思考を鍛えるのが、本来の教育」ではないか(甲野さん p70)。
実は、「基本的」「定理」とされていることは、すごく難しい。
子供たちの勉強を見ていて思うのが、小学生から中学生レベルの勉強は、とりあえず「定理」的な知識を覚えさせて、それらの「使い方」を学ばせる形になっているということ。
で、しばしば子供たちから「どうしてそうなの?」と質問される。
だけども、子供たちのそういった疑問や質問はとても本質的だったりして、「とりあえず今は覚えて」としか言えないことが親として情けない。
(たとえば、分数の足し算で分母と分子をそれぞれそのまま足してはいけないのはなぜか、なぜ通分するかとか。これ、数年前に姪っ子から質問されて即答できず、一晩中考え、ようやく説明する理路を見つけました・・・・・てか、私がバカなんでしょうか? あ、そうですね)。
確かに何事も「基本」がもっとも難しい。
なぜならば、まさにそれがその問題の「エッセンス」だからだと愚考します。
そしてエッセンスは一見、簡潔なので、その本当の奥深さは自分で苦労して見出さないと、理解がとても表面的になってしまうのではないでしょうか。
それから、これまで環境的に独学せざるをえず、常に「これでいいのかな」と不安だったので、私としては養老先生の言葉にとても勇気づけられました。
家庭関連について。
ここでは詳しく書きませんが、野沢直子さんのお父さんのエピソード。
どことなく切なく、また野沢さんの今の振る舞いも素敵だなと(p73-88)。
あと大竹しのぶさん。
三谷さんに対する評価や、演じることについてのご本人なりのお考えも興味深いのですが、私としては、離婚後の元・パートナーとのかかわり方や相手への感情のありようが「大人」で、さすが大女優と感服(p25-40)。
やはり、とんでもない才能を持っている方は、一味違う。
以前、シェイクスピアの「ヘンリー6世」が、新国立と彩の国さいたま劇場の2か所でほぼ同時期にかかったことがあって、両方とも観劇したのですが、新国立ではソニンさんががんばって演じていたジャンヌ・ダルクを、彩の国の方では大竹さんが演じていました。
いったい年齢差何歳で同じ役なのかという感じですが、驚いたのは大竹版の方がはるかに体の動きが「10代の少女」だったこと。
あまりのことに驚愕して、鳥肌がたった記憶が。
馬にゆられての登場だったと記憶しているのですが、軽く猫背気味(思春期の女の子特有の姿勢ですね)で馬の動きに体の動きがあっていないために不安定で、並み居る将軍たちの前でなんとか背筋を伸ばして凛と「しようとしている」、しかし、やはり所詮は10代の少女に過ぎないジャンヌの決意と恐怖感や不安が、身のこなしだけで表現されていた。
とんでもない人です。
清水さんの名語録も。
「諦めるって案外、夫婦関係を長持ちさせるコツ」というのは、よく聞く「秘訣」だけど言うは易し。
むしろ、私は次の言葉に唸った。
「諦めは信頼と紙一重」(p239)
なるほど・・・・・
これ意外に深い言葉でないですか?
<相手に任せてしまう>という結果だけを見れば、諦めも信頼も似ている。
しかし、もっと違う視点から考えが深められそう。
よく知られていることですが、「諦め」はもともと仏教用語で「真理や道理が明らかになる」から転じているので、もともと否定的な言葉ではない。
また、ドイツ語で似た言葉にGelassenheitがあり、ヤスパースが使っていて「諦め」と訳され、これ、「神の御心のままに」というニュアンスです。
話を戻せば、「諦めも大事」と言われるよりこちらの言葉の方がずしんとくるし、私の仕事的にも「諦め」と「信頼」、少し考えたい言葉です。
うん、どんな本でも、考えたい宿題が見つかる。
やはり読書は楽しいですね。
ほかに清水さんは結婚する時、ご両親から「結婚しても、それぞれの居場所、寝場所をもったほうがいい」(p240)とアドヴァイスされたという。
私は今のところ意見が違いますが、子育てを終えた方々のお話しを思い浮かべると、ああ・・・と納得。
これはライフ・ステージの変化と共に腑に落ちてくる言葉かも。
へえ、と思ったのが、矢作さんの以下の話。
矢作さんは「母子家庭で兄弟が姉一人だった」ので「女性に多くのことを期待しない」ようになったという。
そして「女性に幻滅しなくなった」から「楽だ」という(p159)。
この点は清水さんも賛同されており、「姉を持つ人と結婚すると楽といわれているしね」と返事をされている。
私にも姉妹はいるけど、ピンときません。
どういう意味なのでしょう?
もっとこの点は深堀していただきたかった(この後、話題が森山家や小木家の面白話に移行してしまう。それそれで面白かった)。
あとは落ち葉ひろい。
すっごく共感した言葉。
以前にも同じようなことを、おっしゃっていたが・・・・https://ameblo.jp/lecture12/entry-12502563350.html?frm=theme
「自分はどこか欠落しているのではないかと不安に思っている人としかつきあいたくない」(中野さん p232)。
私は気が弱いのでここまでは言えません。
私は、ご本人は無自覚のようだけど、私が私の欠落だと思っている部分に無遠慮に触れてくるような人とは関わりたくないとは思います。
ただのファン気質で。
何とも言えない底意地の悪さがすがすがしく(あ、褒めているんですよ)、エッセイを愛読している辛酸なめ子さん。
今回の鼎談では、相変わらずの元city boyぶりで東京話に終始する泉麻人さんが独壇場の中、言葉少なに、しかし確実に痕跡を残していくのが、まさに辛酸なめ子さんらしくて、私的にはものすごく嬉しかったです。
いわく「一休さんが『性の目覚め』」(清水さんは「どんなテレビを見ていたんですか」という普通の質問しただけ。だれもウィタ・セクスアリス話を求めていないのに!)。
そして、その理由は・・・・・・書きかけたけど、ぜひお読みください(p190)。
大笑いしました。・・・・てか笑っていいのかな。
あと、なめ子さんが得意な物まねが何かという質問の答えが、お隣の北の国のエライ方の妹さん(! しかも物陰で見ている真似だそうです。すっごい見たい)だったり、令和となって日本を象徴する位につかれた、あのお方の妹君のコスプレをして帝国ホテルをうろついたとか(p196-197)・・・・・・ますますファンになりました。
ジェーン・スーさんの対談でも興味深いことを話されていた光浦靖子さんhttps://ameblo.jp/lecture12/entry-12497392000.html?frm=theme。
一度、大河ドラマに出演なさったが、自分には演技は無理だと思ったと。
その理由が「私の問題は音程にある」(p293)。
普通、こういう時、役柄に入りきれないなどの精神論か、体の動きなどのフィジカルな議論になりがちだが、ご自分の発声に注目されるあたり、人とは異なる自己観察力あるいは自己距離化する能力、内省力、自他の違いに対する批評性を感じます。
これって「知性」とされるものの要素ですね。
ますますファンになりました。
しかし、清水ミチコさん、全然エラそうではないのだけど(もしくは、エラそうでないからか)、幅広い人脈と人望で、数年後にはお笑いを生業とする女性たちのリーダー的存在になっていそうな気がする。
というか、すでにそうでしょうか?
人見知り(と清水さん、どこかで発言されていた)なのは同じなのに、ただの「人見知り」にすぎず人望のない私としては、清水さんの立ち振る舞いと何が違うからこうも差があるのだろう・・・と、しばし考え込んでしまいました。
・・てか、そんな肩のこらない面白い本なので、ぜひご一読を。
清水ミチコ「三人寄れば無礼講」
中央公論新社 304ページ
1600円+税
ISBN 978-4-12-005240-8