ある週刊誌の書評を読んで面白そうと思って買った本。

 

 

 1997年、母親の血液に胎児のDNAが見つかった(p159)。

胎児のDNAの半分はお父さんのものだから、お父さんのDNAが胎児を介してお母さんにいっちゃっている。(p181)

 

 ええ!

 

 胎盤を通じて、母親と胎児のつながりがあることは常識だろう。

 また、母から児へだけではなく、児から母に血液が移行することは知られていた。

 たとえば血液型Rhマイナスの母親がRhプラスの胎児を妊娠すると、二人目以降の児の血液型がRhプラスの際、黄疸で死んでしまう現象から説明されている。

一人目の胎児がRhプラスで児の血液が胎盤を通じて母の血液に入り込む。そして母親の体内でRhプラスへの抗体ができる。このため、二人目からRhプラスの胎児を妊娠すると、抗体を含んだ母の血液が胎盤を通じてに流れ込み、胎児の血球を壊してしまうのである(p162-163)。

 

 ちなみに ゲーテの子供が長男のアウグスト以外、死亡してしまったのは、妻ヴルピウスの血液型がRhマイナスだったためではないかと言われている(ジークリット・ダム「クリスティアーネとゲーテ」法政大学出版局)。 

 

 ところが、父由来のDNAも胎児から母親に流れ込んでいたというのである。

 母と子、あるいは父と子は血がつながっている。

 しかし、「夫婦はしょせん他人」というのが一般的な理解だろう。

 ところが、出産を経ると、奥さん方の血液の中には旦那さんのDNAが流れているのである!

 

 傍証として女性が発症する頻度が高い強皮症の発疹部分にY染色体が出てきたという。あるいは、男児を出産した強皮症患者さんの半分の方がY染色体をもっていたが、SLE患者さんでY染色体をもっていた方はゼロだったという(p189-190)。

 

 

 これ以外にも興味深い情報が満載である。

 

 たとえば腹帯。

 私は、あれは家内のお腹を「守ってくれている」のだと思っていた。

 しかし、本来は全く違う意味だった(p289)。

 また、腹帯やつわりの際に食事をどうするかなどを、なんと福澤諭吉が論じており(p202、289)、しかも医学的にも正確だったらしい。

 

 最相さんの質問も鋭い。

 「胎児はなぜ拒絶されないか」(p194)

 確かに、他人の染色体をもつ胎児を異物と認識して免疫反応が起きてもおかしくない。

 この質問に対する増﨑先生のお答えが面白い。

 

 「妊娠中に食の嗜好が変わるのはなぜか」(p202)

 

 「帝王切開で生まれた双子は、どうやって兄弟、姉妹決めるのか」(p228)

 この質問に増﨑先生は重要な問題ではなさそうにお返事される。

 しかし、実は意外な問題が控えているのである。

 

 

 増﨑先生の名講義。

 「Xの大きさが手の小指とすると、Yって小指の爪ぐらいしかない。おまけなんですね」(p19)

 おまけって・・・。

 

 「Xの中にはものすごい数の遺伝子が入っている」が「Yって何をしているかというと、女を男にする役目しかない」(p20)

 

 

 「おそらく片方のXがいつの時代かおかしくなって(原文ママ)Yに変わっちゃったんですよ、それが男」(p20)

(先生の表現はなかなかバンカラなので、妊婦さんは読んでいてちょっとしんどくなるかもしれないことを指摘しておきたい)

 

 「男は胎盤、女は胎児」(p303-)

 そして、この話はなんと

 「そう。処女懐胎です」(p308)

 に着地する。

 

 

 感動したところ。

 体細胞は細胞分裂を繰り返して死んでいく。それが寿命。

 でも、ずっと昔から、そしてこの先も、ずっと死なずに受け継がれる細胞は・・・(p302)。

  

 

 

 最後に増﨑先生からのメッセージ。

 

 「妊娠を楽しむ」(p173)

 

 家内の「産みの苦しみ」を見ていた私には言えないなあ・・・

 

 

 

増﨑英明、最相葉月「胎児のはなし」

ミシマ社     320ページ

1900円+税

ISBN-10:4909394176