アメリカ心臓麻酔学会 | 手術室発、日本の医療へ

手術室発、日本の医療へ

毎日の麻酔業務におけるミクロなことから始まり、そこから浮かんでくるマクロな日本の医療全体についてまで、感じること、考えることを書き残していきます。専門的なことも書きますが、一般の方にも読んでいただければと思います。

先月末より開催されていたアメリカ心臓麻酔学会に参加してきた。

今年の開催地は、私の古巣であるボストンであることもあり、しかも
先月よりボストンへの直行便がJALより就航したので、行くことにした。

まず、JALの直行便のおかげで、これまで乗り継ぎもいれて18時間くらいくらいかかっていたボストンまでの時間が大幅に短縮されて、12時間あまりで到着できたことが大きい。

この歳で、エコノミークラスでは厳しいかとおもいきや、ボイーイング最新鋭の787のおかげで(?)
あまり疲労感を感じずに現地に到着できた。

後で知ったのだが、787の特徴として、通常より、高めの機内気圧を維持していること、高めの湿度を維持していることなどが疲労の軽減に大きく貢献しているのではということが大きいかと思った。

さらには、なんと、エコノミーのシートにRECAROを使っていたことである。
そのおかげで、12時間一度も席をたつこともなく、座りっぱなしであったが、
なんとか腰痛にもならずに済んだ。

技術の進歩とは有り難いものである。

Boeing787に乗れたことで、今回の学会出席の目的の半分は達成できたと思っている。(笑)
それほど、違いのある機体だった。

と同時に、今回、面白かったのは、機内での映画サービスである。
ありきたりの最新ハリウッド映画はもとより、かなり古い映画も放映していたのは
有り難かった。

なかでも、”The Verdict"(邦題「評決」)という映画をやっていたことだ。
実はこれはボストンでの教育病院(私のトレーニングを受けた病院)での麻酔事故に基づいて作成された映画である。
私もアメリカで留学している最中、この映画の存在は聞かされていたが、
ついぞ見る機会がなかったので、今回は貴重な機会とばかり、眠い目を押して見通してしまった。。

1970年代に帝王切開の麻酔に、絶飲食が不十分な妊婦に、
マスクによる全身麻酔をかけた結果、誤嚥を生じ、植物状態になってしまった女性がいた。これに対して、これを麻酔科の過失を訴えて訴訟を起こした家族側に立った、ポール・ニューマン扮する弁護士が、麻酔科の権威ある教授相手に、勝訴に導く過程を描い映画である。

1970年代にこのような映画を作って、麻酔の怖さを伝えていた米国の啓蒙活動には
頭がさがるし、またこの映画をボストン便で公開したJALのセンスも賞賛に値すると思っている。(もっとも、そこまで考えて映画をチョイスしていたかどうかわからないが)

麻酔事故を1970年代に啓蒙していた米国の麻酔学会には頭がさがると同時に、
本邦での麻酔への啓蒙がいまだ進んでいないことに対する、憤りも覚える限りである。
麻酔事故を扱った映画、ドラマとしては、20年前の渡辺淳一作の「麻酔」という小説ならびにそれを原作としたテレビドラマがあるが、これも、結局麻酔事故の本質に迫ることなく、植物状態に陥った妻への愛を描いた、愛情描写で終わっている。

本格的な麻酔事故を扱ったドラマ、小説などがない日本の麻酔事情は、それなりに社会からの認識も薄いのも当然のことだろう。

麻酔科学会をあげて、麻酔の重要性、重大性をもう少し啓蒙してもよいのではないかと思う。
あらためて、アメリカの麻酔科の歴史の厚さを感じた、機内だった。