天皇陛下の手術 | 手術室発、日本の医療へ

手術室発、日本の医療へ

毎日の麻酔業務におけるミクロなことから始まり、そこから浮かんでくるマクロな日本の医療全体についてまで、感じること、考えることを書き残していきます。専門的なことも書きますが、一般の方にも読んでいただければと思います。

先月半ばに、心臓のバイパス手術を天皇陛下が受けられた。

幸い、経過は順調で、今週、来週にも退院されるとのことで、何よりである。

ところで、この天皇陛下の手術の執刀をされたのは、順天堂大学の天野教授。

これまで、天皇陛下の手術といえば、東大系の医師が担当していたのが常だったが、
今回ばかりは違ったようだ。

心カテを担当した私の同級生もその内情までは明かしてくれなかったが、
要は、東大の心臓外科には任せるわけには行かなかったということだろう。

循環器内科の医師は、患者を心臓外科に回しても、その後のフォローは自分たちが行うわけで、
その際に、術後のグラフトの開存率が低ければ、すぐにわかってしまう。
そうなると、あの心臓外科医には、手術は頼まない、ということになる。

おそらく、これまでにも、自分たちの患者はあまり、東大の心臓外科には紹介しなかったのだろう。
少なくとも、VIPは。。

というわけで、白羽の矢が立ったのが、ご近所順天堂の天野教授だったわけだ。

たまたま、私自身、年末に、手術の見学に訪れた際にも、快く迎えてもらえて、
朝から晩まで、手術を見学させてもらう機会を得た。

正直、カルチャーショックだった。

彼の手術は、決して速いわけではなかった。
しかし、ほとんどすべて手術を自分で行い、
しかも、そのすべての処置が、丁寧、繊細、完璧を極めている。

通常、うまくて速い、か、遅くて下手という基準で、外科医の稚拙を判断していた私としては、
このような極め方もあるのかと、恐れいったものだった。

決して、天才的な器用さに頼ることなく、確実、洗練された動きで、ひとつひとつ丁寧にこなしていく。まさに、安全を絵に書いたような手術だった。

なるほど、うちの心臓外科部長をして、「心臓外科医のナンバーワン」と言わしめるだけのことはある。

天野教授が天皇陛下の手術を担当されたことは、なんの不思議もなく、至極当然のことと思えた。

そして、今回の事件は、東大の心臓外科医、あるいは、東大の外科系の医師たちにも良い教訓となったことだろう。

外科医は、手術がうまくてなんぼである。

このことが、世に広く知られることになった、天皇陛下の手術は、私にとってもちょっとした事件であった。

普段から主張している、心臓外科の集約化がこれで、すこしでも進んでくれることを祈るばかりである。