『美味しんぼ』の原発の表現における騒動を見たり読んだりして思い出したのは、
『明日、ママがいない』
という、日本テレビ系列で放送されたドラマのことだった。これは、児童養護施設を扱った芦田愛菜主演のドラマだったが、これを見た視聴者の中にPTSDの症状が出たり、また子どもをあずける施設への偏見を助長するということで抗議が放送局に寄せられたり、スポンサーが広告の放映を見送ったことなどについての問題だった。当然、ドラマを見た人にはフィクションであることを理解したうえで制作者側を擁護する発言もネット上では多かった。
私はたとえ人数が少なかろうと、幼いころを思い出してドラマを見た瞬間に何らかの症状を発症する人がいたら、なにがしかの配慮をするべきだったのではないかと思っている。ドラマが面白かったかと問われれば、施設の作りというよりはいかにも作り物の家と偏見の助長を助けてしまうと私にはとれてしまう過激な描写についていけず放映途中で見るのをやめてしまった。
ドラマを冷静に見て理解できる人のためにではなく、何らかの身体的異常を発症したり精神的に苦痛を感じる、そんな方のための配慮が必要なのではないだろうか。そういった弱者の人の声はだいたい小さく世間を揺るがすところまでいかない。
今回の『美味しんぼ』の“鼻血”問題では、国や大阪市などの自治体がいち早く抗議の旨をビッグコミックスピリッツ編集部に送ったり懸念の旨を表している。だが、正直なところ臭いものに蓋をしているといった印象が強い。今回の連載の最後に自治体や有識者の意見を載せている。
今回の件で、ウクライナやベラルーシ、あるいはヨーロッパの国々が、チェルノブイリ関連の様々なデータを提供してくれました。ウクライナなどは国情が大変ですが、きっちりとした健康調査を行っていて放射線による健康障害についての研究も行っている。しかし、日本は今回の福島の原発事故で漏れた放射線は少ないから、健康被害は出ない、だから健康診断や疫学調査はいらないと決めつけて、甲状腺のエコー検査以外何もしません。これはとんでもないことです。
(山田 真氏 BIG COMIC スピリッツNO.25号)
この意見が、自分の思いを簡潔に表現してくれている。
原発事故が起きたとき
「ただちに、被害をもたらすものではありません」
といっただけ当時の枝野幸男官房長官の発言に代表される、情報を開示ししないで逆に不安を煽り市民を放射線が拡散した地域に避難させる結果になったことは非常に重い。
政府が民主党から自民党に政権が代わっても、懸念を表するばかりで東京電力の顔色ばかりうかがう体質はちっとも変わらない。『美味しんぼ』を攻撃するより、抗議だけに躍起になる自治体や政府の姿勢こそが問題なのではないか。