2012年5月28日。
福島第一原発事故国会事故調査委員会。
菅直人前総理は国民へのお詫びから話しはじめた。
「昨年の東日本大震災、それに伴う福島第一原発事故で亡くなられた皆さん、被災された皆さん、全国の皆さんに心からお悔やみとお見舞いを申し上げたい」
ここから、海水注入に絞って前総理の発言を抜粋してみる。ひとりの人間が不可思議な行動をとる。
「冷却のためには海水注入が必要であるという点で、私と海江田大臣をはじめ、専門家、関係者は一致していた。そういう認識のもと、3月12日18時ごろから20分程度、私、海江田大臣、原子力安全委員長、保安院、東電の派遣された方が話をした。その時点で東電の武黒(一郎)フェローから『準備に1時間半から2時間はかかる』という説明があった。そこでその時間を使って、海水注入に限らずいくつかの点で議論をしておこうと(思った)」
議論ですか。ずいぶん悠長なことだ。やがて海水注入の準備ができたという。前総理の発言では何号機に注入されるのかはわからない。そしてメルトダウンをおさえるべく海水が注入されるのだが……。
「……武黒さんは確かに原子力のプロ中のプロだから、海水を入れることがいかに重要であるか、淡水を海水に変えたことは再臨界と関係ないことはよく分かっておられる。その人がなぜ吉田所長に『止めろ』といったのか、私には率直にいってまったく理解できない」
おそらく、海水を注入すれば原子炉を使えなくなる。武黒氏は結局東電側の人間なので、土壇場で東電の利益を優先したということだろうか。市民の安全を優先する“原子力ムラ”の意志があらわれたのだ。
前総理の批判のひとつに「組織を動かしたことがないから人事がわからない」というものがある。市民運動から手練手管でのしあがってきた人間にとって、人を動かす機微はわからない。東電側の人間を信用して、もっといえば専門家を信用したことは緊急時においては失敗だといえる。
組織を生かすも殺すも人事次第だが、自民党のように派閥が人材育成をする方式をとらずグループという緩い結びつきで票合わせの寄せ集めされた議員しかいない民主党に人事の機微を求めるのは無理だろう。今の日本の危機は内需が拡大されない時代に震災が襲い、そこに最悪の政治集団が日本のトップにいることだ。そして、有事がおこったときに議論をするという間の抜けた発想しかでてこない平和ボケした感覚しかめぐらせない政治家がいることが悲劇を拡大している。
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武黒フェローについてはこの本にかかれています。