「あの王様……」
「王様はもうやめろ。
お前が俺を王様とか言うから、が俺に仕えておかしくなるんだろうが。
蓮太郎に仕える大王様なら、おかしくないだろうが」
いや、なんで、今、『様』つけました。
充分おかしいですよ、期指 と思う唯由に蓮太郎は言う。
「蓮太郎と呼ぶんだ、蓮形寺」
「あの……まず、あなたが私を名字で読んでますけど」
「だって、お前を唯由と呼ぶとか、恥ずかしいだろうが」
まっすぐ唯由を見て、蓮太郎はそんなことを言ってくる。
いやいやいやっ。
そうやってまっすぐ見つめてくるのは、あなた的には恥ずかしくないことなんですかねっ!?「そうだ。
蓮太郎が嫌なら、れんれんでもいいぞ。
紗江さんは最近、俺のことをそう呼んでいる」
もうお前んちに婿入りした気分だ、と言う。
いや、だから、何故、我が家に婿入りしたがる……と思いながら、唯由は言った。
「せ、せめて雪村さんで」
「そうか」
と言ったあとで、蓮太郎は、
「そうだ。
お前の妹の写真、執事長が送ってきたぞ。
全然似てないな」
とスマホに送られてきた月子の見合い写真を見せてくれた。
だが、唯由は、月子の写真の前にある超可愛らしいうさぎのスタンプの方が気になっていた。
これ、執事長さんが送ってきたんですよね? 写真の月子は、ちょっとおとなしそうには見えたが、いつもの月子だった。
「似てないですか?
よく似てるって言われるんですけどね。
腹違いのわりには」
「なにを言う。
お前の方が燃え盛るように美しいぞ」
と真顔で言われ、
「やめてください……」
と視線をそらす。
どんだけ目が曇ってるんですか、と思いながら唯由は赤くなった。
この王様……じゃなかった。
雪村さんは照れるべきところを間違っている、と唯由は恥じらいながら思っていたが。
蓮太郎はすぐ、
「まあ、今は恋のはじまりのようなものだから、あばたもえくぼなのかもしれないが」
と冷静に分析し、褒めたばかりの唯由を谷底に向かって突き飛ばす。「とりあえず、おごってやろう」
と蓮太郎は唯由にサイダーを買ってくれた。
「あの……」
なんだ? と出て来た缶を拾ってくれながら、蓮太郎が振り向く。
「……月子は別に悪ではないですよ」
そう義妹をかばいながら、なんか今、ちょっとこの続きを言いたくない気分だ、と思っていた。
月子がそう悪な人間でなかったら。
あなたは月子と見合いしてしまいませんか――?
だが、自分が月子を悪だと思っていない以上、黙っているのも卑怯だなと思った唯由は思っていることのすべてをそのまま口にした。
「月子は悪い子じゃないんです。
ただただ、厄介なだけなんです」
「いやお前、それ、なんのフォローにもなってないぞ……」
と蓮太郎には言われたが。
その厄介な月子をそう嫌いでないことが、一番の問題なような気もしていた。
「月子はお前のことが嫌いなのか? シンデレラ」
仕事の合間なので、そう時間はないのだが。
一緒にサイダーを飲みながら、蓮太郎が訊いてくる。
「いや~、どうなんでしょうね。
面と向かって訊いてみたことはないですが。
よくは思ってないでしょうね。
子どもの頃、一緒に遊んだこともあるんですが。
なんだかんだで姉妹だからって、お父様が会わせてくださって」
いや、なんだかんだの原因はお前の父では……という顔を蓮太郎はしていた。
「あの頃から、月子は私に対して攻撃的でしたが。
……でも、それも仕方のないことなのかもしれませんね」
月子の目には、自分が正妻の子として、のうのうと暮らしているように見えていたのだろうから。「だが、お前のことだ。
月子にもやさしく接してたんじゃないのか」
「……やさしくしたいな、と思って、初めて会ったときも、全力で月子と遊びました。
当時、小学校でめちゃくちゃ流行ってて、私がハマってた。
叩いて殴って、じゃんけんぽんで」
「それ、ずっと殴ってるよな」
「……祟って殴って、じゃんけんぽんでしたっけ?」
「より凶悪になってってるな」
「ともかく、あの、じゃんけんで勝ったら、ハリセンとかで相手を叩いて、負けた人がヘルメットかぶって防御するあれですよ。
学校でいつもすごい盛り上がってたので、月子とやっても盛り上がるかなと思って。
二人で新聞紙でハリセン作ったり、兜を折ったりしてやりました」
「ちょっと微笑ましい気もしたが。
新聞紙の兜、防御力ゼロじゃないか?」
かぶったら殴ってはいけないというルールのところもあるようだが、大抵、勢いで殴ってしまう。