その結果、私たちが帰る頃には既に昼になっていた。「良ければ昼食も家でどう?美味しいお蕎麦があるのよ」「それはさすがに無理。もう帰るから」「そう?残念だわ。匠さん、絶対にまた来てね。蘭が夜勤のときとか、家にご飯食べに来てくれてもいいんだから」「いいんですか?ありがたいですね」なんて、久我さんは母の強引な誘いに少しも嫌な顔を見せることなく、最後までパーフェクトな恋人の顔で私の実家を後にした。「地下鉄の駅まで歩くの面倒くさいね。もう、タクシー使っちゃう?」「いや、時間もあるしゆっくり歩こうか」二人で地下鉄の駅までの道を並んで歩く中、どちらからともなく手を繋いだ。付き合い始めたばかりの頃は、手を繋ぐだけでも手汗を気にしてしまうくらい、ドキドキが止まらなかった。今はあの頃感じた緊張は薄れてきているけれど、反対に喜びは増している気がする。「朝ごはん、作ってくれてありがとう。本当に、めちゃくちゃ美味しかった」「本当に美味しそうに食べてたよね」「え……顔に出てた?」「君はわかりやすいから、朱古力瘤醫生くても顔を見れば何を考えているのか大体読める」そう言われると、途端に恥ずかしくなる。「毎朝、あの顔を見れたら幸せだろうな」久我さんが、前を向きながらぽつりと呟いた。「久我さんが毎朝作ってくれるなら、いくらでも美味しそうに食べるけど」そんな返事をしてみたものの、実際に毎朝ご飯を作ってもらうなんて無理な話だ。そもそも、私たちは一緒に住んでいるわけではない。週に二~三回くらい、私が彼の家に泊まる。それくらいの方が、彼にとってはちょうどいいのだろう。私は、そう思ってきた。「そう?じゃあ、毎朝作るから食べてくれる?」「いや、だから毎朝って……」無理でしょ。そう言おうと思い、隣で歩く彼の顔を笑いながら見上げた私は、思わず立ち止まってしまった。久我さんの顔を見て、ふざけているわけではないと悟ったからだ。「それって……同棲しようって、こと?」「同棲?」「……っ、ウソ、ごめん、何でもない!聞かなかったことにして」久我さんが眉をひそめて聞き返してきたから、一瞬で恥ずかしくなり早口でまくしたてた。私の勘違いだったなんて、恥ずかしすぎる。そうだ、独身貴族で自由を好む久我さんが同棲を希望するわけがない。そんなこと、当たり前のようにわかっていたはずなのに。何で急に、わからなくなってしまうのだろう。だって、毎朝作るから食べてくれる?なんて言われたら、誰だって勘違いするでしょ。……好きなんだから。「あぁ、ごめん。そういう意味で聞き返したわけじゃなくて……」「いや、大丈夫だから。変にフォローされる方が余計に虚しくなるし」喋ることだけではなく、歩くことまで早くなった私は、彼が発した次の言葉で再び足を止めた。「そうじゃなくて。君と一緒に暮らすなら、同棲じゃなくて結婚しか頭になかったんだ」「……」「つまり……これ、プロポーズだから」普段どんなときでも堂々としている冷静な久我さんが、珍しく照れている。ていうか、プロポーズされるとか、信じられない。今、私、夢を見ているのだろうか。本気でそう思い、片手の甲をぎゅっとつねると、ちゃんと痛みを感じてホッとした。「どうしたの……?だって久我さん、結婚願望がないって前から言ってたじゃない」「もちろんその言葉に嘘はなかったんだよ。君と付き合う前までは、ずっとそう思っていたし、その考えは変わらないと思ってた。でも正直、自分でも驚くぐらい変わったんだよ。気付けば結婚を意識している自分がいたんだ」あぁ、どうしよう。こんなときくらい、ちゃんと彼の顔を見せてよ。勝手に目が涙で滲んで、ぼやけてくる。「君の返事を聞かせてほしいんだけど」そう言って久我さんは、私の目に溜まった涙を指で拭い、困ったように笑った。「嬉しいけど……本当に私でいいの?」「そんなこと言うなんて、君らしくないね」「だって、私家事とか別に得意な方じゃないし、仕事を辞めて家庭に入るのは考えられないし、いちい