あの日、
無言のモモを連れて帰ったあの日。
用意してた寝床にモモを寝かし、湯灌して最後のブラッシングをした私。
モモは長患いではなかったから綺麗な毛並みのままだった。
もうこれでモモのブラッシングをする事はないんだ。永遠にできなくなったと思うと涙が溢れ出た。
しばらくモモを抱いていた私。
血液の病気なのでいつまでも鼻からの出血が止まらないモモを抱いていると
可哀想に。
苦しかったんだろう。と涙が止まらなかった。

お花屋さんでお花を買い、コンビニで買えるだけの氷を買って来て、モモの周りをお花で飾り、お気に入りの骨のおもちゃを飾り、フードとお水を供えて、お線香を焚いた。


あの日、病院にモモを迎えに行く前と帰って来てからは家の中の空気が一変した。
そう、モモは霊となって帰って来てたのだ。
私はモモが霊となって帰って来たのを感じていた。
今、私のそばに寝ているのはモモであってモモではなかった。

信じられないかもしれないけどね。
モモは霊となって家に帰って来てたの。
姿形は見えないんだけどね。
影が、モモの霊が家の中を動いてるの。
ちょうど大きな黒い雲みたいでね。
モモの大きさの雲なの。
それははっきり見えるの。
心で、気持ちの中で見てたんだと思うけどね。
時々、その影が霊が暴れてるの。
まだ、自分が死んだ事が理解できなくて、死にたくなくて、苦しんでるんだなあと私には思えたの。
私が泣いてるのを見て余計にその霊も苦しんでたのね。ずっと私の周りで霊も動いてたの。

でね。
夕方にね。
泣いてる私の耳元にね。
その霊が言葉をかけたの。
「もう、そんなに泣かないで。
これからは私がみんなを見守るからね。」と。

そう言う言葉が、モモの大きな声がハッキリ私には聞こえたの。
その言葉をかけてきた霊はその瞬間、黒い影ではて灰色の影に変わってね。
暴れ狂ってた黒い雲ではなく、穏やかな灰色の雲となってフワフワと家の中を動いているの。

その瞬間、私はモモがやっと自分の死を受け入れてくれたんだと思うと妙に納得したの。
何となくホッとしたのね。
モモが自分の死を受け入れた以上、私も受け入れなくてはと、ただそれだけ思ってたの。

その晩は夫と二人でモモの夜伽をした私。
私は、モモが霊となって帰って来て、夕方 声を聞いた事を夫に話しました。
すると信じられないことに夫も
「僕もモモの声を聞いてん。」と言うではありませんか。
夕方、
夫は散歩道をあの日も歩いていて、その時に前を幼稚園位の知らない男の子と女の子が遊んでいたそうです。
見るともなく2人を見てたら、その女の子が
「お父さん、散歩をやめないで。」と言ったそうです。
夫はびっくりして周りを見渡したら誰もいなくてその女の子を見たんだけど、女の子はもう何も言わなくてまた男の子と遊んでたそうです。
「女の子が言ったように感じたけどあれはモモの声やった。」と夫が言います。
「自分が死んでも夕方の散歩はやめないでと言ったんやろなあ。」と続けます。

更に
「この家に帰っているモモの霊は僕も感じてるよ。」とも言います。
「どの辺に?いるん?」と私が尋ねると
「その辺」と指さします。
確かにそこは私も感じていたところです。
「そこにモモはいて僕達を見てるよ。」とも言うのです。
「こっちを見て笑ってるよ。」と更に言います。
「えー!、私には姿は見えへん。雲みたいな霊しか感じへんわ。」と私。
「今、二階に上がっていったよ。」と更に続ける夫。
夫は今まで非科学的なことは一切信じない人間でした。
たくさんのお年寄りを見送ったけど霊的な体験は一切聞いたことがありませんでした。
そんな夫が、モモの声を聞き、モモの姿を見てるなんて。
生きてる時のままのモモの姿が、動いて笑っているモモの姿が見えるなんてと信じられませんでした。
話を聞くうちに夫もモモの霊が見えてるんだと確信できて嬉しかった私です。

次の日の朝になってようやく、モモの鼻からの出血は止まり、お昼頃に火葬場へ連れて行きます。

夕方、
小さな小さな姿になったモモを連れて帰りました。

モモの霊はその日も私達といました。
何となく、モモはしばらく私達といてくれるんだなあと感じてた私。

その次の日
「今日はモモはいないね。」と夫が言います。
私もその日はモモが居ないのは感じていました。
「大阪のお友達のところへお別れの挨拶をしに行ったんだろう。」と言う夫。
越して来て以来、一度も大阪へ帰れてなかったので、モモは会いたかったお友達の所へ霊となって飛んで行ったんだなあと思った夫と私。

夕方、モモは帰って来ました。
心の中で「お帰り。モモ」と言う私。

晩は生前と同じように、二階寝室の私のベッドの右足元でモモは寝ていました。
私は生前と同じようにモモの背中を撫でてヨシヨシして寝ました。
安心して寝ることが出来ました。

モモは
ずっとしばらく、朝に夕に霊となって私達のそばに寄り添ってくれました。

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