その人はとても美しく、ショートカットの髪に白いスーツ姿だった。まさに凛とした雰囲気だった。
中学校の昼下がりの教室は保護者会が始まろうとしていたが、警察に補導されたA君がそのクラスにいることに関し、迷惑だとか、受験に悪影響だとか、私語がうるさかった。
保護者が順番にあいさつをし、やがてその人が立った。
「Aの母です。本当にご迷惑をおかけしています。」
みんなの目が一点に集中した。その人は深々とおじぎをした後、母ひとり子ひとりであること、自分が朝から夜まで働いていること、先生と一緒に息子を警察に迎えに行ったことが一度ではないこと、そして本当は母思いの優しい子であることを真剣に話し、また頭を下げて座った。
白いスーツが勇気を際立たせ、息子を守る盾に思えた瞬間だった。
あれから10年経ち、娘からA君は結婚したようだと聞いた。
あの時の彼女の姿を、よく思い出す。
親が子を守る覚悟を持ち事実をさらけ出すことが状況を変えると教えてもらった気がする。
朝日新聞、ひととき欄。
主婦、55歳。