私の生まれて初めての記憶。
それは  恐怖。

多分3歳か4歳の頃、
私は海で溺れて死の恐怖を感じた。

海に沈んで必死になって頭上の海面をつかもうとして手を伸ばす私。
届かない恐怖。
両手でもがきながら必死で
頭の上の海をつかもうとしてた私。

記憶はそこだけ。
前後の記憶はない。

海の中の感触と
両手をもがきながら伸ばした感触と
頭の上で揺れてる波の感触は
今でも鮮明に思い出す。
60年経った今でも忘れる事が出来ない。

後でわかった事は、
私は波打ち際の岩に座ってて波にさらわれたということだった。
多分、その時、姉も近くにいたのだろう。
お友達と遊んでいたのかもしれない。

小学3年生だった姉は自分もつま先立ちになって顔を海にうずめながら、流されていく私のワンピースの裾を必死で掴んでくれてた。

知らせを受けて駆けつけた父によって
助かった私の命。

もしもあの時、父が来るのが遅かったら、
もしもあの時、長姉が力尽きてワンピースの裾を掴むのを諦めてたら、私の命は終わっていた。

この時以来、私は海が怖くなった。

私の生まれて初めての記憶は
恐怖。死の恐怖。

20年位前ににその岩を改めて見た。
とても小さな波打際の岩だった。
あの小さな岩に、小さかった私が座り、
波にさらわれて沖へ流されたんだと思うと
何だか夢のようだった。

でも、あの海の恐怖は
今でも忘れることが出来ない。
私の生まれて初めての記憶。


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