私達がマンションを処分して
近くにある夫の実家の跡に家を建てて
おばあちゃん達と同居すると聞いた父は、
ある日 私に電話をかけてきた。
「マンションを売って欲しい。
そこへ行きたいから。」と言ってきた。
父の気持ちがわかっていた私は
「良いけど、多分予想してる生活と違う事になると思う。お年寄りがたくさんいてるし、
その人達が病気になったら、
どうしてもその人達の世話が先やから。
それでも良かったら、来てもいいよ。」と
返事した。
娘三人の中で私を一番かわいがっていた父。
結婚する時も大反対した父。
マンションを処分して家を建てて
おばあちゃん達と同居する話を知って、
居ても立っても居られなかったのだろう。
母に内緒で私に電話をかけてきた父。
私の返事を母にどう伝えたのかは知らない。
知らないけど、
しばらくして母から私に電話がかかってきた。
「家を処分してそのマンションに行くって
言ってるけど、私に相談もせんと勝手に電話して。その話はなかった事にしてね。」と
言ってきた。
「そうやねえー。年行って戸建てからマンション生活はしんどいしね。」とだけ答えた私。
父は落胆した事だろう。
仕方ないなあ。夫は一人っ子だしなあ。と
思っていたら、今度は何と、
義叔父から夫に電話がかかってきた。
義叔母がお風呂に入っている間に
内緒でかけてきたのだ。
「向こうの人達と暮らす家に
自分達も加えて欲しい。」と言ってきた。
この叔父の言う事を聞けば
最初、7人の同居話が
一気に10人になるのだ。
夫は「考えてみる。」と言って電話を切った。
義叔父は私達と暮らしたいけど、
義叔母は住んでる家を離れたくないのだ。
そんな義叔母に相談もなしに
義叔父が夫に電話をかけてきたのは、
よくよくの事だろう。
私も迷いに迷った。
叔父の期待に応えられないのは
わかっている。
「僕達に迷惑はかけないからって言ってた。」と夫から聞かされたところで現実は何も変わらない。
一週間、迷いに迷って夫に返事しなかった。
返事がないのが返事だと判断した夫が
意を決して、叔父へ断りに行くと言いだした。
ドアを開けて叔父の家に出かけようとする
夫の背中を見た時、私は決心した。
「同居した後にどうなるかわかっているけど
運を天に任せよう。」と言った私。
義叔父が喜んだのは言うまでもない。
それからいろいろあって、
本当にいろいろあって
家が完成して、私達は父と母を招待した。
母は、挨拶した後、
リビングから出なかったけど、
父は一階から二階の部屋、すべての部屋を
見て回り、お風呂場迄覗いていた。
父と母が帰った後に、
夫が申し訳なさそうに
「お父さん、あんなに部屋を見て回って。」と言った。
私は何も言えなかった。
あれから月日が流れて、長い月日が流れて、
今、大阪から離れて
海の見える地に住んでいる私達。
すべてのお年寄りが亡くなったら
大阪を離れるのは家を建てる前の
私と夫の約束。
もしも、あの時、義叔父の電話がなかったら
私達夫婦は別な地に住んでいたかもしれない。
時々、あの日の父と
義叔父の電話を思い出す。
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