『東大合格生が小学生だったときのノート』の著者に教わる、親子で「ノート力」アップする6つの約束
賢者の知恵
太田あや
子どもの「問題を解く力」を養う秘訣は「ノート力の向上」にあった
『東大合格生のノートはかならず美しい』シリーズ(文藝春秋)で50万部を超えるベストセラーを放った太田あやさんは、8年間にわたる取材のなかで、彼ら東大合格生が小学生時代、学校や塾の授業で書いたノートを借り、分析を進めていました。集めたノートの数は、じつに100冊以上にのぼります。
中学・高校生を対象に、難関大学を目指したいという受験生に向けて書かれてきた“ノートシリーズ”ですが、その読者は、大学生はもちろん、ビジネスパーソンにまで広がりを見せてきました。
筆者の太田さんは、一方で、「ノートを書くことは楽しいんだって、もっと対象年齢の低い子どもたちに伝えたい」という思いを温めてきました。それが、このたび『東大合格生が小学生だったときのノート ノートが書きたくなる6つの約束』(講談社)という形で結実しました。
彼らの個性溢れるノートから、太田さんが読み取ったのは、ある一定の法則でした。
新学期が始まり、そろそろ授業も本格化するこの時期、とくに小学生のお子さんをお持ちの保護者は、お子さまが、学校で書いているノートに注目してください。太田さんの提唱する小学生向けの「ノート術」を身につければ、平常の授業を聞くだけでも基礎学力を上げることができるのです。
5年後の20(平成32)年には、学習指導要領が改定され、よりいっそう、「自ら考える子ども」が求められる時代を迎えます。また、大学入試制度も変化を求められており、センター試験の廃止が検討されています。正解が用意された問題を解く力ではなく、自らが課題を設定して、それを解決する力を持った人材を育成するのが目的でしょう。
新学期がスタートしたいま、「ノート力」をアップして、「自学自習できる子ども」を育てる秘訣を、太田さんに聞きました。
「どうして、ノートを取らなくてはいけないの?」
――太田: みなさんは、自分のお子さんが学校や塾で書いているノートを見たことはありますか?
東大合格生への取材を通して、子どものことを知るのに、彼らが書いたノートを見ることは、とても大きな手がかりだと感じています。いま習っている勉強に、どれくらい集中できているのか、勉強することを楽しめているのか、習ったことを理解しているのか・・・。 ノートの書き方や字のていねいさから、お子さんがどんな表情で授業に取り組み、心の中で「わかった!」とか「難しいな」と思っている様子が見えてくるはずです。
しかし、小学生、中学生ばかりか、高校生になっても「ノートの取り方がわからない」という声が、多く聞かれます。そのなかには、各都道府県でトップクラスの公立高校の生徒も含まれています。プリントを配る形式の授業スタイルが増え、真っ白なノートに一から何かを書き始めるという経験がないことも一因でしょう。
小学生のお子さんを持つお母さんから聞いたのですが、娘さんから、こんな質問をされたそうです。
「どうして、ノートを取らなくてはいけないの?」
私自身、この質問をされたら、どう答えるだろうかと考えました。
話を聞かせていただいた東大合格生の多くは、「ノートをとることが楽しかった」と言っていました。そんな言葉に、ノートを取る意味のヒントが隠されていると思います。
彼ら、東大合格生のノートは、一言で言えば「美しい」のです。「嫌々ながら板書しただけ」という要素は微塵もなく、教師や講師が授業で話した知識を「記録」し、自分の頭に定着させるために「整理」してまとめ直して、さらにその知識を問題演習というかたちで出題者に「伝達」するという、書くという行為における3つの原則が、きちんと抑えられています。
私が集めた「東大合格生たちが小学生だったときのノート」から見えてきた約束事を紹介しながら、ノートを書くことで基礎学力が向上するという意味をお伝えできればと思います。
さっそく、その約束事を6つ、ご紹介しましょう。
約束1 ノートは、自分のために書こう
どれも、当たり前のように見えて、これらのルールを徹底できているお子さんは、なかなかいません。それぞれの約束についての詳細は、図1~6をご覧いただくとして、もっとも大切なのは、約束1だと考えています。
これまで東大合格生100名以上を取材し、彼らのノートを見てきて、ある共通点が見て取れます。それは、「意図を持って行動する」という書き方です。
彼らは小学生のうちから、授業の内容、主に板書を写して、そこに書かれたことについて、わからなかった部分や、もっと知りたいと思ったことを書いておく授業ノートや、おもに算数ですが演習問題をひたすら解いていく演習ノートなど、用途に合わせたノートを使い分けていました。
それは彼らが、目的をしっかり持ち、受身ではなく主体性を持ってノートを書いていたことのあらわれです。
ノートを書くのは、自分のため。学んだことを頭に定着させたり、テストの前に復習するときに使ったりするために書いているのです。まずは、「ノートは誰のために書いているの?」ということを、親子でいっしょに考えることをオススメします。
約束3も、大事にしてほしいルールです。
東大生は授業を再現するノートを書くと言います。授業のノートをとることを、黒板をそのままきちんと写すことだと考えている子どもは多いと思います。しかし、それだけで授業は再現できません。
授業中、自分が何を感じ、何を考えたのか。そのことまでもノートに書き込んでいく習慣をつけることで、授業のどの部分を理解できていて、どの部分を理解できていないのか、授業全体を把握し、それを自分の勉強に落とし込む力へと変えてゆくことができます。
自作の問題で「交換日記」。大切なのはお子さまとの距離感
――太田: 取材した東大生の多くは、教科書や参考書をそのまま覚えるということはしていませんでした。それは、かならずしも自分が理解しやすい形で書かれているわけではないからです。彼らは、教科書や参考書を、ひたすら読み続けることは非効率だと考えています。
学校や塾で、どれほど素晴らしい授業を聞いても、それを自分のものとできるか否かは、自分次第です。ここで「ノート力」がものを言うのです。
良い授業を、教科書の新しい知識を、参考書の解説を、自分が理解しやすい、自分の頭に沿った形に整理して記す。これこそが「ノート力」です。東大合格生は、「自分が覚えやすい形で情報を整理するためにノートを書いている」と、小学生のうちからはっきり目的意識を持っていた人が多かったです。
私の書いた『東大合格生が小学生だったときのノート』に登場する松田ゆきねさん、信彦くん(東大工学部4年)親子は、対談のなかで、こう発言しています。
ゆきねさん「実力を正当に認めてもらうためには、試験で正解しなくてはいけませんよね。試験の問題は文章で書いてあって、それを読んで理解して、答えを書くことができないと点数はつかない。だから、机に向かい、文章を読んで、考えて、解答を書くという一連のことを学ばせようと思ったんです」
ゆきねさんは、信彦くんが小学1年生のときから、自作の問題をノートに書き、それを信彦くんが解くという、まるで親子の交換日記のような方法で、自宅学習をしていました。
松田さん親子にかぎりませんが、私が取材した東大合格生に話を聞くと、多くの家庭で小学生のころから、早いところでは幼稚園のころから、親子でノートづくりに取り組んでいるとのことでした。
冒頭でも言いましたが、子どものノートは、彼らがどのように勉強と向き合っているかを伝えてくれる最大の手がかりです。ノートは、それを書いたときの、その人の状態を如実にあらわしてくれます。
私はこの本のなかで、子どもといっしょにノートづくりをすることを勧めていますが、お子さんへのサポートの方法として4つの手段を紹介しています。
サポート(1) 音読・模写をさせる
サポート(2) 子どもの気持ちに寄り添う
サポート(3) ミスの分析の仕方を教える
サポート(4) 交換日記をする
お子さんのノートを見て、「字が汚い!」「計算ミスをしている!」と叱っても何も変わりません。先ほどの松田さん親子のケースでは、親が交換日記形式で問題を出題していました。親も子も、一冊のノートに字を書くという交換日記は、きわめて有効なサポートです。お子さんにとって、親御さんの書いたノートの跡こそが、ノートに字を書きたくなる“お手本”になるのですから。
交換日記が大変だとしたら、お子さんが問題を解いたノートを見て、正解した問題に花丸をつけてあげたり、間違いがあったら、どこがわからなくて不正解になってしまったのか一緒に原因を考えたり・・・・・・。
どの行為もお子さんに寄り添うということで共通しています。そうすることで、お子さん自らが、「自学自習」することの楽しさと大切さに気づき、基礎学力を伸ばすきっかけをつかむのです。この作業については、近道はないというのが実感です。
ノート力をアップして目指すところは、結局、「書くことをいとわない子に育てる」ということに尽きるかと思います。そしてこの習慣は、小学生のうちに身につけておくことが望ましいのです。
小学生のお子さんの気持ちにムラはあるかと思います。何も言わなくても好きな教科にのめり込むときも、何を言っても勉強が手に着かないときもにあるでしょう。しかし、「ノート力」を身につけるということは、学校や塾で習うことに対して「何のために学んでいるのか」ということと、お子さん自身が向き合えるようになるということです。
20(平成32)年の学習指導要領の改定は、その後の大学入試制度の改定とつながっています。これからは、与えられた問題にただ答える子どもではなく、ひとつの問題を深く掘り下げ、多様な視点で問題の解決法を導き出す子どもたちが評価されることになりそうです。
お子さんの「ノート力」を向上させること。それは「自学自習できる子ども」を育むことにつながっています。大袈裟でなく、今後、激変する「学ぶ環境」のもとで、子どもたちがしなやかに生き抜いていく力になると確信しています。
(現代ビジネスより)
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