私は札幌生まれである。冬になると雪をかぶったナナカマドの赤い実をよく目にする。
渋滞のバスの中や、吹雪に吹かれながら歩く道端でそれを見かけると、
全く別の次元のものを見ている錯覚にとらわれる。
雪の白と実の赤だけが妙に目に焼きつくのだ。そしてそこから
いろいろと想像をめぐらせる。真っ白な雪原の中に倒れている赤い肌襦袢の女。
雪の上に点々と染みている喀血のあと。雪の白さと赤には儚さを感じる。

しんしんと降る雪の中で堅く踏みしめられた雪道を歩いていると、
やがてそこは自分だけの世界になる。
音は積もりに積もった雪が吸い込み雪を踏む足音だけが自分の耳元で聞こえる。
「しんしん」とはしーんとした静けさの音なのだ。

二十年ほど前に渡辺淳一原作の「阿寒に果つ」という映画を見た。
ヒロインの少女は阿寒湖で睡眠薬を飲んで自殺を遂げる。
―睡眠薬を飲み凍死―これが一番美しい死に方らしい。
この少女が雪原を湖に向かって雪をこいでいくシーンで着ていたコートは赤だったと思う。

赤と白、熱さと冷たさ、若さと死、相反したものに極限での同一性を感じる。
そこに存在している現実離れした美しさ。

ナナカマドの実と降り積もる雪を見ながらバスに揺られていた冬の日。