以前住んでいたアパートの近くに、空地があった。
ゆるくカーブを描いている坂道を登っていくと、その空地は現れる。丈の高い雑草で覆われたかなり広い土地で、周囲はフェンスで囲われていた。住宅地の中にあり、昼間ならどうということのない場所だ。
しかし、その空地には妙な噂があった。夜になると、雑草の中から、何かが現れるというのである。いったい何が現れるのか、そのあたりははっきりとしないのだが、そこには何かがいるというもっぱらの噂だった。空地は不動産会社の管理地だったが、雑草が刈られたところを見たことがなかった。
物好きな友人のひとりが、深夜、その空地に行った。面白半分。何が出るのか確かめてみようというわけである。
彼が空地を訪れたのは、午前二時だった。その時間をわざわざ選んだのである。彼にあったのはその翌日だった。昼ごろ訪ねてきた。浮かない顔をしていた。
「見たよ」と、彼は言った。「あの噂は本当だった」
彼が空地のことを言っているのだと、すぐにわからなかった。
「空地だよ」と、言われてやっとわかった。
何を見たのかと訊いた。
「女の腕だ」と、彼は言った。
空地を覆った雑草の中から白く長い腕が出ていたと彼は言った。綺麗な腕だったとも言った。その腕は、まるでおいでおいでをするように、ひらひらと揺れていた。そう言ったときの彼の顔――とても嘘をついているとは思えなかった。
その後も彼とは会っているが、空地の話をしたのは、そのときだけだった。特に何か変わったことが、彼の身におきたということはない。今は故郷に帰り、結婚して、子供もでき、幸せに暮らしている。
その後もぼくは、空地の近くにあるアパートに住んでいた。昼間は空地のある道路を使ったが、陽が落ちてからはできるだけ使わないようにしていた。
その空地も、いまはもうない。
ゆるくカーブを描いている坂道を登っていくと、その空地は現れる。丈の高い雑草で覆われたかなり広い土地で、周囲はフェンスで囲われていた。住宅地の中にあり、昼間ならどうということのない場所だ。
しかし、その空地には妙な噂があった。夜になると、雑草の中から、何かが現れるというのである。いったい何が現れるのか、そのあたりははっきりとしないのだが、そこには何かがいるというもっぱらの噂だった。空地は不動産会社の管理地だったが、雑草が刈られたところを見たことがなかった。
物好きな友人のひとりが、深夜、その空地に行った。面白半分。何が出るのか確かめてみようというわけである。
彼が空地を訪れたのは、午前二時だった。その時間をわざわざ選んだのである。彼にあったのはその翌日だった。昼ごろ訪ねてきた。浮かない顔をしていた。
「見たよ」と、彼は言った。「あの噂は本当だった」
彼が空地のことを言っているのだと、すぐにわからなかった。
「空地だよ」と、言われてやっとわかった。
何を見たのかと訊いた。
「女の腕だ」と、彼は言った。
空地を覆った雑草の中から白く長い腕が出ていたと彼は言った。綺麗な腕だったとも言った。その腕は、まるでおいでおいでをするように、ひらひらと揺れていた。そう言ったときの彼の顔――とても嘘をついているとは思えなかった。
その後も彼とは会っているが、空地の話をしたのは、そのときだけだった。特に何か変わったことが、彼の身におきたということはない。今は故郷に帰り、結婚して、子供もでき、幸せに暮らしている。
その後もぼくは、空地の近くにあるアパートに住んでいた。昼間は空地のある道路を使ったが、陽が落ちてからはできるだけ使わないようにしていた。
その空地も、いまはもうない。