私は創業80年、元・旅館業に始まる不動産会社の三代目です。私は父から受け継いだ会社のほかに現在2つの会社を経営しており、主に不動産の物件再生や事業創出に力を注いでいる華の30代です。しかし、私には悲しい過去も多く、受験失敗、事業売却、就職失敗、投資詐欺と、挑戦したからこそ待ち受ける苦難に、自分の信念がほんとうに打ち崩されるようなことがたくさんありました。
特に、不動産に関して言えば、祖父から受け継いだ土地に対して、様々な業者から「売った方がいいよ」、「売れば楽になる」と不動産の売却を迫られ、周りからは「お金持ちで苦労知らずだから私たちとは違う」と誰からも共感を得られず、誰も信用できない環境下の中で育ちました。だから私は、私の元に来る不動産オーナーさんに対して、私は「あなたの土地は絶対に売らないでください、一緒に勉強しましょう」と言います。私はコンサルティングをしませんし、そんなお金を頂くくらいならば自分で稼ぐという強い意志の元で仕事をしています。
不動産について、この「LDK覚王山」の建物は、私が初めて金融機関の融資を受けて購入したものでした。
私が20代の頃は、東京の投資銀行に勤めて日本中の不動産を資産管理したり、評価したり、売買しました。今から8年前にリーマンショックという金融不安によるバブル崩壊で、日本中の不動産が投げ売られる時代がありまして、この「LDK覚王山」がある建物もその捨てられた物件の一つでした。不動産ファンドが保有していたこの物件が債権回収機構という会社に流れたのち、ろくな管理がなされずに、水漏れ、壁の亀裂、設備不良、その他いろんな問題があった中で、5年前にこの物件を購入させて頂きました。
とはいえ、何でも私の好きなように不動産経営できるわけではなく、この物件を担保に融資した銀行関係者の意思、建物所有会社の意思、各店舗経営者の意思があり、家賃を自由に設定することはできません。ですので、彼らとコミュニケーションをする上で必要な不動産の基礎知識を学び、一つ一つ問題点を解決するために努力することに決めました。
ビジネスは明解であり、非情であります。私が立てた不動産の収支計画を超える成果を出せば何も文句を言わず、失敗したら叱責追求を受け、悪くすればすべての資産取り上げ、お取り潰しとなります。だからこそ、お金のことだけは責任を持って整理し、判断することが、経営者としての使命と受け止めています。
まずは、この物件をなぜ購入したのか?
それは私の生まれ故郷である覚王山であったからというのが縁の始まりです。故郷の再生は、一人一人の不動産オーナーに課せられた使命と受け止めています。
その昔、私の祖父が名古屋の戦後復興期に名古屋地下街の開発や名古屋の発展に一生懸命力を注いできた歴史があることを親戚や祖父の知人から聞いたことがあります。今でも私が知らない多くの祖父の友人や仕事関係者から感謝されることがあります。そう、長年かけて築き上げた信用を大切にし、土地の歴史を受け継ぐ伝承人として、不動産オーナーは最後の最後まで土地に執着する生き物なのです。お金の問題はありません。奮闘の果てであれ、不動産を売ってしまえば、「あぁ、あの人はついに戦いに負けたのか」と、その地域、その街にいられなくなってしまうほどプライドの高き地主という職業なのです。
こんな考えはみなさんには無関係と思われるでしょうか?
実は今、不動産オーナーは、日本人の大半がその立場にあたります。あなたの親が持っている実家、あなたが買ったマンションの一室、別荘の土地、すべての方に相続税がかかる時代となり、不動産を持つか捨てるかをいずれ選択しなければなりません。みんな不動産のことを勉強しなければならない時代が来たのです。
そこで、「ノーブレス・オブリージュ(nobles oblige」という言葉をみなさんはご存知でしょうか?19世紀のイギリスの女優で著作家であるファニー・ケンブルが手紙の中で「貴族が義務を負うのならば、王族はより多くの義務を負わなければならない」と書いたのが、この言葉のはじまりとされている。つまり、貴族に自発的な無私の行動を促す明文化されない社会の心理であり、社会の模範となるように振る舞うべきだという社会的責任に関して用いられる。現代ではCSRとしての考えに近い。私は、「地主としてのノーブレス・オブリージュは何か?」について考え、多くの先人・先輩より学び、さらなる地域の発展と、歴史の承継にどうかかわっていくかを追求している一人でもあります。
私たち不動産オーナーはそのことを深く理解した上で、もしかしたら、その土地を手放すときが来るかもしれません。誰か使命を受け継いでくれる人に土地をお渡しするときが来るかもしれません。それでも、最後まで、その地域のこと、そこに住む人たちのために何か協力できることがないかと考え、同じように苦しむ不動産オーナーさんがいたら助けあう精神を大切にしたいと話し合う場として昨年、不動産オーナーのためのビジネススクールを立ち上げました。このLDK覚王山の実現に際し、このビジネススクールの存在は欠かせません。
周りからはちょっと変わった不動産オーナーと言われていますが、そんなに地域のことを考えて利益も出していける事業が不思議なのでしょうか?ボランティアやNPOにしてみれば、利益を出すだけで地域に還元していないと言い切れるのでしょうか?私はお金の仕組みについて、いち金融学専攻の人間として真正面から追求してみたいのです。
次は私の不動産投資の考え方と街づくりに必要な地域創生ファンドについてお話します。
不動産オーナー経営学院REIBS














