江戸川大学ライフデザイン学科2年 相澤真一

 

はじめに

 7月10日に行われた第59回ローカルデザイン研究会では、水山養殖場代表取締役社長の畠山重篤さんをゲストに、「森は海の恋人」というテーマで、畠山さんの行っている牡蠣・帆立の養殖活動や森と海との関連性についてお話を伺った。

鉄について

 畠山さんが初めに話されたのは、鉄の役割についてだ。人体にとって鉄とは、酸素を体のすみずみまで運び、炭酸ガスを受け取って肺に戻ってくるという二つの役割を成していて、植物にとっても、養分の吸収を助ける肥料のような役割を果たしている。

 そして、海にとっても鉄は非常に重要な役割を果たしている。植物プランクトンにはリンや窒素といった肥料分が必要で、この二つを形成する硝酸イオン、リン酸イオンには鉄が必要となる。しかし、現在では海中の酸素の量が増加したことにより、鉄の酸化が行われ、鉄が粒子状になり海の底に沈んでしまいイオンの形成が難しくなっている。還元を行うにおいても、鉄はその原動力となっており、海において、そして植物プランクトンにおいて、鉄は重要でありながら極めて不足している状態にある。また、鉄は川に多く存在すると言われている。

かきの森を慕う会、森は海の恋人運動

 昭和40年代、50年代になると、気仙沼湾の環境が悪化し始める。赤潮※1が発生し、血牡蠣を呼ばれる牡蠣が大量に取れるようになると、それらは全く売り物にならず、廃棄処分されたのだ。原因は、水産工場から流れる汚水、一般家庭からの排水、農業での農薬の使用等多岐に及んでいた。これが、畠山さんにとって森と海とのつながりを考える転機となり、気仙沼湾に森の養分を運ぶ、大川の上流に存在する室根山に落葉広葉樹林の森を創る、という理念のもと“かきの森を慕う会”が結成された。

 では、海と森はどのようにつながっているのか、森に木を植えることで枯れ木や落ち葉から腐葉土※2と呼ばれる天然の肥料が作られ、川へ流れる、腐葉土は酸素を通しにくくなっているため川に存在する鉄と混ざり合い良質な肥料が作られ汽水域※3に運ばれるのである。そして、汽水域に生息する植物プランクトンに腐葉土や鉄が行き届くのである。海中においての食物連鎖の基礎である植物プランクトンに良質の肥料が行き届くことで、海全体が豊かになるのだ。

 こうした一連の流れから、かきの森を慕う会の人々は漁師でありながら森に木を植える“森は海の恋人運動”を行い、豊かな森、川、海の復活を実現した。

教育の場、地球温暖化防止へ

 森は海の恋人運動は、漁師に生活を豊かにするだけでなく教育、環境の向上にも一役買っている。森、川、山のことは小学校5年生の社会の教科書に載っているし、毎年何人もの子供たちが実際に船に乗り、魚を触らせる、顕微鏡でプランクトンを見せる等をして子供たちに、より具体的に自然の関連性について考える、自主的に学ぶ機会を提供している。こうした学習は環境のあり方を考え直す場ともなり地球温暖化防止にもつながっている。

また、鉄が昆布や海藻類を育て、それらが光合成を行うことによって二酸化炭素(CO2)を固定する効果がある。森を創ることは、海にも森を創り、地球温暖化防止にもなるのだ。

 漁師が森に木を植えるという行為が、森、川、海、はもちろんのこと、教育、環境にまで広がり、関連性を持つようになったのである。

感想

 畠山さんの話を聞いて、縦の連携だけでなく横の連携、そして、横の連携を図るためにも点と点を繋げるパイプ役の存在が重要だと感じた。今回のような森、川、海に限らず社会では、ほぼ全ての事が関連性を持って形成されている。縦の繋がりだけではこうした関連性に気付く機会が少ない、だからこそ、縦の関係を繋げるパイプ役の存在が欠かせないし、こうした役目は私たちのようなローカルデザインを学んでいる者が果たすべきだと思った。

 今後も、かきの森を慕う会の発展を期待したい。ありがとうございました。

 

※1……プランクトンの異常発生による、海の変色。海洋汚染による生態系のバランスが崩れた時に発生する。

※2……落ち葉や枯れ木がバクテリア、ミミズ等の土壌動物により分解されて土状になったもの。

※3……淡水と海水が混じり合った塩分の少ない水がある区域。河川の最下部に位置するため河川流域の養分が多く流入する。