第28回 2005年7月20日(金) 渡辺知彦 ドイツパン職人工房「ヴァルト」
人口1,000人に満たないドイツの小さな村キーヒリンスベルゲンを舞台にパン屋修行の行われた3年間は、環境問題、食問題から関心をいだいたドイツの毎日が、「豊かさと暮らし」とは何かを驚き考えさせる、もっと大きく深い時間であったのだと思います。
季節の行事を自分たちの暮らしの中に映すその生活は、何百年と続く宗教観と歴史、小さな村社会でいかに心を寄せつつ暮らしていくかという人間の知恵と、相互援助の精神が、個人主義、合理主義、規則主義のドイツ社会にあっても世代をつなぐ精神のあり方と暮らしとなっています。
しかし、よく目を凝らしてみれば、たとえば、たまねぎケーキ祭り(Zwiebelkuchenfest)や、謝肉祭(Fasnacht)は、その個々の歴史の中で生まれ、若い世代の新しい刺激(カルチャーショック)から新しいことがミックスされ、変化し姿を変えながら現代の中にあります。それは多くの人を幸せにしています。
時間が経ち、積み重ねられていくもの、変化するもの。カフカの「変身」のように朝起きると自分とは似ても似つかない別の姿になっていて驚くというほどの変化は、実際そうそうありません。
しかし、海外から戻ってきた時のカルチャーショックと、刺激を受けた中から生まれたモチベイションは、自らの変化を恐れない大胆さと危機感で、新しい価値観の創造の原動力です。ドイツの三年間、そして、戻ってきて三年間、まねから始まってドイツのパンを学び、自分の考えでやってみたその結果が、さまざまな経験がミックスされて生まれる個性として。
周りも楽しく幸せにすることがドイツの生活から見えてくる人間の暮らしとローカルのデザインのヒントでしょうか。さらに、深い愛情と寛容さ、忍耐力が暮らしの中にありました。
ドイツで良いと思っても、しかし、感じてきた事を具体化しまとめるという作業は、いまの日常の迫り来る仕事や用事にまぎれて途中であきらめてしまいます。
もう一度今の生活の中で日々思い出したいと思います。
(吉本 標実)