「…ウソだろ… マジかよ…」
今、目の前で健やかな寝息を立てている彼女をどうしたらいい?
俺、そんな風呂長かったか?
濡れ髪のまま風呂から出て来た紫織の姿に危うく理性を手放しそうになるのをグッと堪え、それを悟られないように髪を乾かす行為で誤魔化した。
彼女と同じ素直で真っ直ぐな黒髪に手を触れただけでもこみ上げるモノはあったけど俺はちゃんと耐えた。
そんなまどろっこしい事をしたのは全部紫織を怖がらせない為だった。
結構頑張って余裕ある大人の男を演じて見せた。
なのに寝てるって。
こんな事ならさっき我慢するんじゃなかった。
ソファーに丸くなって寝ている彼女に近づき寝顔を見つめる。
何でそんなに安心しきった顔で寝てんだよ
お前にとって今夜は特別じゃないのか?
さっきまであんなに緊張してオドオドしてたのに?
今日、幾度溜め息をついただろうか。
相変わらず軽くてびっくりする身体をそっと抱き上げてベットへ運ぶ。
起きる素振りなんか微塵もない。
まあこの前の事を考えたら?
一緒にベットで眠れる事は進歩とは言えるか。
結局ゆっくり眠れるはずもなく、俺の腕の中にいる紫織の寝顔を見つめていた。
長い睫毛に縁取られた眼。
綺麗な桃色のふっくらとした唇。
そっと指先で触れてみる。
しばらくすると顔をしかめながらゆっくりと目を開けた。
形の良いアーモンド形の瞳が俺を捉える。
「…おはよ、良く眠れたか?」
「お、おはよ…ございます…」
やっと事態を把握したのか慌てたように瞬きを繰り返す。
「…あの… 臣、さん?…」
やっぱ無理だ。
理性なんてモノは昨日からどっかいってる。
「…えっと… んっ!」
何も言わない俺の顔を見つめながら何か言おうとする唇に自分の唇を重ねた。
いきなりの事に固まってしまった紫織の柔らかい唇をゆっくりと味わうように舌先でなぞる。
優しく、じっくりと時間をかけて。
少し開いてきた唇の隙間にゆっくりと舌を入れ解すように少しづつ彼女の舌を絡め取る。
緊張からか胸の前で強く握られていた手にそっと触れ指を絡めた。
意外と強く握り返して来る。
何度も角度を変え唇を心ゆくまで味わう。
されるがままになっていた彼女の身体から段々と力が抜けて行くのがわかった。
ゆっくりと唇を離し彼女の顔を見ると頬に光るものが見えた。
やべぇ、やり過ぎたか。
「…ごめん、我慢の限界だった。無理矢理過ぎたよな…」
その言葉にハッとした顔で慌てて涙を拭う。
「…違う、これは… そうじゃなくて…」
「怖かった?」
「じゃなくて!…あの、初めてで、こんなの…」
「なに?」
「…きもち、良くて… びっくり、した…」
頬が上気したように染まっている。
涙で潤んだ瞳で俺をジッと見つめて来る。
なぁ?
もう優しくしてやる自信ねぇわ。