「敬浩、ビール飲みたい。」

「だろうな(笑)。SHOKICHIは?」

「んー、俺も貰おうかな?」


二人を見送ると何だかホッとしたのと同時に軽い疲労感を感じた。
敬浩の注いでくれたビールが心地よく喉を潤してくれる。
グラスを一気に空けると何より不安だった事を尋ねた。


「ねえ、臣は大丈夫そう?ちゃんと納得させてくれた?」

「お前一気に飲むなよ(笑)。」


呆れながらも空のグラスを私の手から取り上げ、新たな一杯を注いでくれた。


「多分な。ただあいつが今回あんなに余裕がないとは思わなかった(笑)。」

「確かに(笑)。何か昔を思い出した。」


SHOKICHIが私を見ながら笑っていた。


「お互いに好きなのに何であんなに拗らせちゃうかな?」

「お前がそれ言う?拗らせんのお前も良くやってたじゃねぇかよ(笑)。」

「確かに(笑)。かなは素直じゃない時がたまにあった。」

「うるさいなぁ~(笑)。今は私の事は関係ないじゃん!」

「関係あるだろ。お前だからこそ二人の気持ちわかるから良いんじゃね?(笑) 」



二人してニヤニヤしながら私を見てくるからちょっと面白くない。




「で?結局何があったの、あの子。」


不意に真剣な顔で核心に触れて来る。

こういう時、将吉ならこちらが話すまでは何も聞かないけど、敬浩は必ずはっきりと口にする。

どちらの優しさも優劣つけ難いが、アプローチの仕方が真逆すぎて時に困る事もあった。


「んー。彼女のプライバシーあるから詳しくは言えないけど、世の中にはつまんない男がいるんだなって話。あんな可愛い子を傷付けるなんて信じられない。今はそんな人周りにいないだろうから安心だけど。」

「男なんて大なり小なりバカだわ(笑)。ま、そいつも今頃痛い目見てんじゃね?女の子泣かせて平気なヤツなんて大した仕事も出来やしねぇって(笑)。」

「めっちゃ悪口言うじゃん?(笑) ま、臣なら大丈夫だとは思うけどね。」

「俺もそう願ってるよ(笑)。」


全てを言わずとも察した敬浩と話していると、隣で携帯を触っていた将吉がいきなり立ち上がった。


「かな、まだいる?俺、明日急遽打ち合わせ入ったから先帰るけど?」

「そうなの?じゃ片付けて私も帰るよ。あ、お風呂溜めるだけにしてるからお願いしていい?」

「オッケー!じゃ、TAKAHIRO君帰るね?ごちそうさまでした〜。おやすみ!」

「おぅ!お疲れ!」


キッチンで洗い物をし始めた私の隣にグラスを手にした敬浩が立つ。



「お前さ、今、幸せ?」

「何よ?急に。」

「いや、何となく。」

「幸せじゃなさそう?(笑)」

「質問に質問で返すな。」


急に真剣な眼差しを向けられ少し心がザワつく。


「幸せだよ。二人が楽しそうに毎日過ごしてくれてるからね。」

「そ。ならいいわ。」


真面目に質問してきたのに興味無さそうな返事が返って来て肩透かしを喰らった気持ちになる。

何の意図があってこんな質問して来たのかわからない。
でも今は本当に落ち着いているし、不安要素も何もないから杞憂であろうとこの話を掘り返しはしない。


「じゃ、帰るね。」

「ん。おやすみ。」



こんなあっさりとした挨拶でお互いに背を向ける。




もう、大丈夫だよね?
ちゃんとお互い乗り越えられたはず。