「後になって聞いた話なんですけど、私が休んでる間に事情を知ったさちかが先輩を殴ったらしいです。グーで顔面を一発(笑)。凄い子でしょ?」
「良いお友達だね、その子。」
「はい。感謝してます。」
高橋さんは黙って私の話を聞いてくれていた。
ホットワインが回ったのか、彼女の雰囲気なのかわからないけれど、私もリラックスして全て話す事が出来た。
「ありがとう。そんな思い出したくない事話してくれて。」
「いえ。おかしいですよね?そんな昔の事を未だに引きずってるなんて。」
「そんな事ないよ。それは大事な事。だけどね、その人と臣が同じじゃないのはわかるよね?」
「はい。でも、怖いんです。」
「ね、臣とキスするの嫌?」
いきなりストレートに質問されて驚く。
「怖いって気持ちは置いといて、行為そのものが嫌だなと思う?臣にキスされると想像したら詩織ちゃんの気持ちはどうだろう?」
「えっと… この前そうなりかけた時、凄くドキドキしました。胸が苦しくて。」
「気持ち悪いとか、不快な気分になった?」
「それはないです。何だか緊張して、でも臣さんが凄く近くに感じられてドキドキして、恥ずかしくて。」
「うん。」
「目を閉じてたら急に昔の事を思い出して怖くなったんです。また同じ事思われたらどうしようって。つまんないとか。」
「純粋に詩織ちゃんの気持ちだけ知りたい。臣とキスしたいと思う?それ以上に深くなりたいって思うかな?」
「… はい。今、抱きしめられたいって思います。彼の胸に抱かれたらどんなだろうって想像した事もありました。」
「ちゃんと臣の事が好きなのね?安心した(笑)。」
ホッとした顔で高橋さんが私を見る。
「大丈夫だよ。臣はそんな事思ったりしないから。あんな言葉足らずですぐムキになるけど、真っ直ぐで優しい人よ。」
「そうなんでしょうか… 」
「私も付き合った訳じゃないから断言は出来ないけどね?(笑) でも間違っても好きな子をそんな失礼な傷付け方はしないよ。今日みたいな無神経さはあってもね?(笑)」
「結構貶しますよね?(笑)」
「でもそれは詩織ちゃんもわかってない?(笑)
もし、今度そうなったら下手くそ!って言ってやりなよ(笑)。あなたが下手だからこっちも気持ち良くなれないのよ!ってね(笑)。」
「あの… 」
「なに?」
「そういうのって気持ち良いモノなんですか?」
高橋さんが優しく微笑む。
「本当に好きな人となら手を繋いだだけでも気持ちいいよ。キスだけで身体中が痺れるような快感が走る事もあるし。」
「そうなんですか?私にもわかるかなぁ… 」
「わかるよ。大丈夫。」
「でも、もう… 」
「臣なら大丈夫。あの人諦め悪いから(笑)。
終わったなんか思ってないよ。」
本当にそうなんだろうか。
「さ、そろそろ戻ってやろうか?(笑)きっとヤキモキしながら待ってるはずよ?あ、臣連れて帰ってね?」
「え?これからですか?」
「ちゃんと二人で話をしなきゃ。時間空けると良い事にならないからね。私から臣には何も言わないから、ちゃんと詩織ちゃんの言葉で説明して。何で避けたのか。先輩との事は言いたくなかったら言わなくて良い。
でも怖かったって言うのは言ってあげてね?そこが一番大事な事だからね。」
「話を聞いてくれますかね?」
「それは敬浩と将吉が言い聞かせてるでしょ。心配ないよ。あのお兄さん達もたまには良い事言うのよ?(笑)」
そう言って笑いながら玄関の扉を開けて待ってくれている。
何だか彼女と話しただけで全て上手くいくような気持ちになっていた。
彼女が皆に好かれる理由が少しだけわかった気がする。
「そのまま外にいて?臣には帰るように言っとく。
敬浩達と一緒の時に会わない方がいい。
大丈夫よ、ちゃんと話したらわかってくれるからね。」
「はい。ありがとうございました。お二人にも申し訳ありませんとお伝え下さい。」
「じゃ、またね。何かあったらいつでも連絡して?
じゃあね、おやすみ。」
エレベーターホールで臣さんを待つ。
本当に話したらわかってくれるのか。
不安でいっぱいだった。