今回の東京行の目的は、生徒の小論文コンテスト出場のための引率が第一義でしたが、実は私にはもう一つ大きな目的がありました。


 井上ひさしの小説に『ナイン』という作品があります。

 「教科書で習った。」と言われる方も多いと思います。この作品は数多くの出版社の教科書に採用されて、多くの人が高校時代に出会う作品でもあります。実際、私も毎年この『ナイン』は飽きもせず授業で取り上げています。

 ところが何年もやっていると、やはりマンネリ化してしまい、授業にハリが無くなってきている感じがしてなりません。
 そこで、一度、舞台となった場所に行ってみて、そこで見たもの感じたものを授業に取り入れてみようと考えたのです。

 小説は、放送作家である井上ひさしが「私」という”案内役”で小説の中”に登場します。「放送局での仕事が思いがけず早く終わったので、四ツ谷駅前の新道にある中村さんの店に寄ってみた。」の冒頭からわかる通り、四ツ谷駅前付近が舞台です。
 四ツ谷駅の近くの放送局と言えば、
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 麹町の旧日テレのことだと類推できますね。今は改修?取り壊し?がおこなわれているようで、大きな重機と足場がありました。ここでの仕事が終わった井上ひさしは、思い立って以前、間借りしていた新道商店街にある畳屋『中村畳店』に向かったのです。

 小説の中で『新道商店街』の立地を描写する部分があるのですが、その中に「J大学の学生が増え、近くに大会社のビルがいくつも建ったせいで、道幅四メートル、長さ百メートル足らずのこの新道は四谷で一番にぎやかな場所になった。」とあります。
 この「J大学」はおそらく、
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上智大学であると思われます。都会の大学は規模が違いますね~。私も以前田舎の私立大学の職員だったので、しみじみと格差を感じました…。

 さて、その上智大学を横目に見ながら四谷の交差点を目指して歩くと、見えました!小説『ナイン』の舞台である新道商店街の入口が!
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 現状としては『しんみち通り』という名で親しまれているようです。
 小説の中では、最初の東京オリンピックの頃には、「豆腐屋があり、ガラス店が、お惣菜屋が、ビリヤード屋が、そして主人が会社勤めの普通の家があった。(略)歌舞伎役者のの住まいもあって~」との記述があり、その頃の日本にはどこにでもあった商店街のようです。それが時の移り変わりでその商店街も様変わりし、飲食店街に姿を変えてしまったとあります。

 実際に通りに足を踏み入れてみました。
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 確かに小説の内容の通りで、そのほとんどが飲食店ばかりです。訪れたのが早朝だったので、本当に静かな通りでした。もちろん、『中村畳店』もあるはずはありません(ちなみ路地の奥に中村ビルというのがありました。何か関係あるのかな…?)。

 この小説はもう一つの舞台があります。ナインですから野球です。その試合が繰り広げられた『外濠公園野球場』があります。ここから10分ほど歩くと…、
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 ありました。すっかり整備された球場です。
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 何があっても切れることのないナインの絆を生んだベンチはこの場所だったんでしょうか?
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 英夫が言った、「父にもわかりません。父は土手の木陰で試合を見ていただけですから。」の土手はここのことだったのでしょうか?
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 野球場の上には、確かに「振り返って西を見ると、大会社の大きなビルが野球場に覆いかぶさるように立っていた。この十何年かのうちに、ここには西日が差さなくなってしまったようである。」の結びの部分の記述通り、大きな看板やビルが立ち並んでいました。

 作品はもちろん小説ですから、虚構の部分が大半です。しかし、その世界がリアルに感じられる場所に行くことができて、本当に良かったと感じています。

 今度、『ナイン』をやる時は、これまで違った授業ができそうです。
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