
流産を繰り返したら
抗リン脂質抗体の検査を受けるのがよい
今回は、習慣流産の原因の中でも非常に有名な「抗リン脂質抗体症候群(APS)」のお話です。
抗リン脂質抗体症候群(APS)とは
抗リン脂質抗体症候群(APS)は自己免疫疾患です。抗リン脂質抗体という抗体が自分の体の一部を攻撃するためにAPS特有の症状が出ます。
抗リン脂質抗体
抗リン脂質抗体について説明しても、難しすぎて、たぶん皆さん読む気にならないでしょうから省略します。次のことだけ知っていれば十分です。
・抗リン脂質抗体は、深部静脈血栓症患者の15~20%、また50歳以下の脳卒中や心臓発作などの3分の1にみられます。
・抗リン脂質抗体は、繰り返す流産やいくつかの妊娠合併症の原因と考えられています。
抗リン脂質抗体症候群(APS)はもともと全身性エリテマトーデス(SLE)と血栓症の関連からまとめあげられた症候群です。ロンドンのSLE専門病棟の医師が詳しく記載したので、その人の名前からHughes症候群と呼ばれることもあります。そのため、産婦人科領域以外では、血栓症に関連して自己免疫疾患やリューマチの専門医が診断、治療をします。
抗リン脂質抗体が関連する妊娠合併症
1) 妊娠10週未満の3回以上連続した流産
2) 妊娠10週以降の胎児死亡
3) 重症妊娠高血圧症候群や子癇前症による妊娠34週未満の早産
抗リン脂質抗体症候群(APS)と診断するための3つの検査
1) ループスアンチコアグラント
2) 抗カルジオリピン抗体
3) β2-GP1抗体
日本の産婦人科診療ガイドラインでは、習慣流産患者の3~15%が抗リン脂質抗体陽性であると記載されていますが、習慣流産の中での抗リン脂質抗体症候群(APS)の割合は非常に低く、3~5%程度であると認識した方がよいと思います。要するに稀だということです。稀ではありますが、治療効果が期待される数少ない原因の一つなので、習慣流産の場合には必ず確認検査をします。
間違って診断されていませんか?
産婦人科関連では、上記1)~3)の妊娠合併症のうち一つと3つの検査のうちの1つが陽性ならば抗リン脂質抗体症候群(APS)と診断されます。ただし、各検査は炎症などによって偽陽性の場合があるので、12週以上の間隔をあけて2回以上陽性であることが条件です。また、陽性であると判断する検査の基準値も適切でなくてはいけません。抗リン脂質抗体が低いレベルで陽性の女性は多いです。低いレベルは診断基準では陽性としません。
抗リン脂質抗体症候群(APS)による流産の特徴
流産を繰り返す人の多くは10週未満の流産であることが多いですが、抗リン脂質抗体症候群(APS)では10週以降の流産の割合が他に比べて高いです。
治療法
抗リン脂質抗体症候群(APS)の場合の流産率は高いです。産婦人科診療ガイドラインで紹介している数字は90%、他の報告では60~80%くらいです。
現時点では、低用量アスピリン内服とヘパリン注射の併用療法がもっともよいとされています。アスピリン単独あるいは無治療の場合の生児獲得率20~40%が併用療法によって70~80%にまで上昇します。毎日ヘパリン注射をするのは大変ですが、治療するのなら併用療法にすべきです。

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