クロミフェン・hCG療法
クロミフェン・hCG療法は、私が産婦人科医になる前から今までずっと標準的な不妊症の治療法であり続けてきました。クロミフェンとは排卵誘発剤、hCGとはLHというホルモンの代わりに打つ注射のことです。LHというホルモンは、卵子が成熟して排卵間際になると急激に増えてきて、その刺激によって排卵が起こります。
時折、「このhCGという注射は何のために打つのですか？」と尋ねられますが、私の答えは（1）「確実に排卵させてタイミングを合わせやすくするため」と、（2）「注射すると少し妊娠率がよくなるといわれているから」です。
（1）クロミフェンを服用するだけでは排卵しないことがあるのか？
実際のところ、クロミフェンが効く人ならば、hCGを注射しなくても自然にLHが頭の中の下垂体というところから出てきて排卵します。ですからLHが出てくるまで待てばよいのですが、人工授精をする都合や夫婦の仕事上の都合などに合わせて確実にタイミングを合わせるためにhCGを注射する必要がある場合があります。クロミフェンが効かなくて卵子が成熟しなければ（卵胞が大きくならなければ）hCGを注射しても排卵はしません。
（2）hCGを注射すると妊娠しやすくなるのか？
昔から、hCGを注射すると排卵後の子宮内が妊娠しやすい環境になるということを示すデータを見せられてきました。ただ、私が医者になった頃には既にhCGは排卵直前に1回注射するだけでよいという立場の人が多かったです。
日本では一般的ではないですが、最近では、hCGを注射してもしなくても、その後の子宮内環境（黄体期の長さ、黄体ホルモンの値、子宮内膜の形態など）に変化はなく、妊娠率も変わらないということが、世界的に有名な教科書に当たり前のように書いてあります。
排卵検査薬が陽性になったら
尿中のLHが陽性になり始めてから14～26時間で排卵するといわれています。
ちなみに、排卵検査薬が陰性でも卵子が成熟していればhCGを注射してから34～46時間後に排卵します。
私がこれまで行ってきたhCG投与法
日本の教科書的には、クロミフェン投与周期には「卵胞の直径が22mm以上になってからhCGを注射する」という方法が簡単で一般的です。私は、できるだけ排卵検査薬を併用して尿中LHが増えて検査薬が陽性になる頃に合わせてhCGを注射するようにしてきました。
海外ではhCGの投与基準が日本と少々違うようで、論文を読んでいていつもモヤモヤした気分になります。海外の論文では、例えば「卵胞径が18mmを超えたらhCGを注射して人工授精」を行った場合と、「排卵検査薬が陽性になってからhCGを注射せずに人工授精」を行った場合を比較して、どちらも妊娠率に違いはない、あるいはhCGを注射しない方がむしろよい、という結果を示しています。
我々の感覚からすると、卵胞径が18mmだとまだ卵子が少し未熟だろうし、子宮内膜も薄いだろうから、そもそもhCGを注射するのが早すぎるのではないか、と考えてしまいます。卵胞径18mmを基準にしてhCGを注射するよりも、排卵検査薬が陽性になってからタイミングを合わせるなり人工授精をするなりした方が当然妊娠率はよいでしょう。
排卵検査薬が陽性になった後のhCGは不要？
「排卵検査薬が陽性になりかけた頃に合わせてhCGを注射すると妊娠率が少しよくなる」
という日本の大学発のデータを信じてきましたので、そうではないと教科書に記載されても納得しがたく、いろいろ論文を読んでみましたが、やはり、排卵検査薬が陽性（尿中LHが陽性）になってからhCGを注射しても妊娠率は変わらないというのは本当だと示す結果が多いです。そうはいっても、排卵障害がある場合にクロミフェンを使用した後のhCGはやはり有用だという論文もあります。特に、排卵障害がある人に対してゴナドトロピンという排卵誘発剤を注射した周期にはhCGの注射が有用です。
一応、2014年のCochrane Database Sys Rev.によると、今のところ、クロミフェン服用時のhCGを推奨するか、逆に否定するかに関して、まだ証拠は不十分だという立場がとられています。
当院での今後の対応
排卵検査薬がくっきり出た後のタイミング合わせや人工授精はhCG注射なしで行うことが多くなります。
排卵検査薬がはっきりでないまま排卵することがまれにあるので、排卵しそうな所見がそろっているのに検査薬が陰性であるという場合など、適宜hCGを注射します。
堅くて小難しい話ばかりですいません。
次回は排卵検査薬の使い方など、ごく簡単な話の予定です。
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