
妊婦健診の話題に続いて、世界の出産事情のお話です。何かと落ち込む内容になります。
世界には、命がけでお産をしている女性がまだまだ多い
話は、私が開業する少し前、1997~1998年ごろにさかのぼります。大学病院の病棟医長という立場であったので、患者さんの入院時には主治医だけでなく私も一緒に診察に加わるという形になっていました。アフガニスタン(あるいは、パキスタンだったか、記憶があいまいですが、アフガニスタンだったということにしておきます)の女性が出産で入院されました。話の要点だけ言えば、イスラム圏の女性であり、男の診察は一切だめ、ということで、妊婦健診から入院、出産、退院まで、男の産婦人科医は全く診察や処置に立ち会わなかったということです。処置が済んでから簡単な話くらいはできますが、ほとんど女医さんと助産師さんにまかせていました。
診察はできませんが、一応責任がある立場ですので、暇な時間にアフガニスタン(?)の母体死亡率や新生児死亡率、食事その他の文化的な事柄などを調べたりしていました。細かな数字は全く記憶にありませんが、日本の常識と比べてはるかに高い母体死亡率、赤ちゃんの死亡率、子供の死亡率に驚いたことは、しっかり覚えています。今、ちょっと調べ直してみると、1996年~2002年くらいのデータでは、アフガニスタンの母体死亡率は10万出生当たり1700~1600人と、世界で2番目に悪い状態です。
2014年5月、世界保健機関(WHO)、ユニセフなどにより、「妊産婦死亡の動向:1990‐2013」が発表されました。妊産婦死亡数は、2013年が28万9000人で、1990年の54万3000人と比べると45%の減少となっています。サハラ以南の地域が全妊産婦死亡数のうちの62%にあたる17万9000人を占め、南アジア地域が24%の6万9000人を占めています。
妊産婦死亡率が最も高い国は、シレラレオーネで出生10万人当たり1100、以下妊産婦死亡率が500を超える16カ国はすべてサハラ以南の国々で、他の地域では、アフガニスタン(400)とハイチ(380)などが高率です。
先進国による産婦人科医療の貢献
ちなみに、日本の妊産婦死亡率は10万出生対で3~4、1900年ごろの日本の数字が400くらいです。私が生まれた1960年が117.5ですので、最近の50年くらいの間に日本の出産の場が自宅から産婦人科へと急速に変化し、医師主導の産婦人科医療がお産のリスクを急激に低下させたのは間違いないことです。
今後は助産師が世界に貢献する
話は、最初の私の経験談に戻ります。母体死亡率の高い国というのは貧しい国、内戦のある国が多いです。また、産婦人科医が立ち会わないお産がほとんどで、現代医療の知識や技術を習得していない助産師の手によるお産がほとんどです。2014年の助産白書によると、73の国々で世界の妊産婦死亡の96%、新生児死亡の93%を占めるとされています。助産師の技量を向上させることによって、これらの死亡率を3分の1に減らすことができるという試算もあります。昔からお産は産婆さんがみるもの(実は私も産婆さんにお世話になってこの世に参りました)、それが最近一時的に男の産婦人科医が医学的に貢献し、今後はまた助産師さんの手に戻っていくのでしょうか?
東アジアのイスラム圏では男の産婦人科医もいますが、南西アジアのイスラム圏ではほとんどの産婦人科医が女性です。母体死亡率の高い国は、そもそも産婦人科医がいなくて、習熟した助産師すらいないのですが、これらの国々においても、助産師を指導する立場の女性の産婦人科医が今後は必要とされるでしょう。習熟した助産師を育成すれば世界の母体死亡はかなり減少する。男の産婦人科医の出番はない、と落ち込んで今回もぐだぐだ終了。

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