ロンドンに来てから1年経ち、僕は不安に駆られることがある。
僕は周囲の環境に適応するあまり、日本人としてのアイデンティティを失ってしまっていないだろうか、ということ。
特に夏のインターンでロンドンで働きだしてからというもの、昼食がSainsbury’sの3ポンド(400円弱)のmeal deal(サンドウィッチ、ポテトチップ、ジュースのセット)になることもしばしば。
ポテトチップスを昼食の一部と考えることにも徐々に慣れてしまっているし、先日も同僚のイギリス人が「ドイツのソーセージって何であんな固いの。しょっぱいし、デカいし、ホント食えりゃいいって感じだよなー」とドイツ料理をDisっている横で、「むしろ、イギリスのソーセージのフニャフニャ感を美味しいと思ったことは無い」とは4人イギリス人、一人UAE人(旦那がイギリス人)、一人日本人の場では到底言えずにいた。反論しないでいるとむしろ自分が間違っている気がしてくるから不思議なものである。(食の話ではないけれど、曇り空をGood weatherと言い切る同僚がいて、さすがに驚いてそんなことないでしょ、と返したら緩やかな口論、もといDiscussionになった。)
このように、世の中に絶対的なモノなど存在せず、すべては相対的で様々な価値観があるのだ、と日々感じる一方で、やはり美味しいものは美味しいのだ、彼らは舌がEducateされてないのだ、と言い切りたい欲求にかられることも多い。そして、そんな時、僕は日本人/アジア人でロンドンのイケてるアジア料理屋・日本料理屋に出かけては、「やっぱこっちの方が旨いじゃねーか!」と自己確認を重ねる日々を過ごしている。
昨日も、そもそもインドネシア人の友人(因みにLBS同期が誇る天才。多分成績は第二外国語以外全部A+)がオススメの「ヨイスシ」に行こうよと言ったのが、始まりであった。
僕は何故かGoodge streetの日本料理屋ヨイショと勘違いし快諾したが、その後、場所がbond streetだと言われ、少し変だなと思いながら、「あんまり高いところじゃないといいな」と呑気に構え、集合場所に向かったのだった。
しかし、そこにあるのはYo! Sushi。
僕の頭は混乱した。Yo! Sushiというのは@kotosakaさんをして、(間違った日本料理のイメージを植え付けるという意味で)「Wagamamaと並ぶ悪の枢軸」と言わしめる店である。美味しい寿司屋=Yo! Sushiというのはどんなに頭の良いやつにロジカルにMECEに説明されても、間違っているとしか思えない。電話して再確認を急ぐが、話はかみ合わない。そう、彼は、Yo!Sushi(ヨースシ)をYoI Sushi(ヨイスシ)として認識しており、どうやら美味しいと思っているらしいのだ。
来てしまったものはしょうがない、お手並み拝見だ。バスが遅れているという彼を待ちながら、一人カウンターで敵の懐に飛び込む。気分はさながら、産業スパイである。
まずはうれしい驚き。イギリスにしては接客の質が良い。席に着いた瞬間にJust in timeで「何か飲みますか?」とオーダーを取りに来た。むむ、もしかしたら、かなり日本の「おもてなし」を研究しているのかもしれない。まずはガリをつまみながら、ビールでも、ということでAsahiを注文。
さすが、アサヒ・ビール。アサヒの瓶は嘘をつかない(Asahiの方によると現地パートナーによるOEMらしいですが・・)。幸先の良いQuality。ガリは正直甘ったるくて、ひどい味だが、ガリ自体を久しぶりに食うので最初の二、三口は美味しく頂いた。そうか、彼らも長年かけてカイゼンを繰り返しているのかもしれない。そんなに腹は減っていなかったが、まあ折角だから寿司を食っておくかということで、ロンドンで一番無難なネタ、鮭の握りを食べることにする。もちろん、回転すしで、回っている寿司を取るのは素人がやること。その場で頼んで作ってもらうのが筋と考え、カウンターの中東系の大将に注文をお願いする。
待つこと数分。鮭の握りが届いた。その悪くない見た目に導かれ、鮭の握りを口に入れる。
「・・・う、うん・・・?シャ、シャリが生温かいぞ・・・」
気持ちの良い酔いとささやかな期待が一瞬で冷め、僕の頭は混乱した。まずそもそも冷めていないシャリなんて想像しないし、仮に最悪温かいご飯でもおにぎり的な感じで美味しく食べれるはず。しかし、生温かいのだ。ヌルいのだ。なんだろうこの気持ち悪い感じ。今想像しただけでも嫌な気持ちになる。
アサヒ・ビールのご加護が消え、テンションがダダ下がりした後は、嫌なところばかりが目につく。置いてある醤油刺しの皿はちゃんと洗えていないのだ。3,4皿、下の新しい皿を見たけど、米粒や何かのかけらが常についている。
その後、友人合流。友人も美味い寿司屋という割に chicken yakisobaとprawn(エビ) katsu curryをメインに食事を進めている。さすがLBS同期が誇る天才、戦略的な選択である。
一縷の望みをかけ、その後アボカド寿司 とカニのフレーク寿司にもTryしたが、何とも言えない味というか食感。パサパサ感が半端ない。
インドネシア人の友人は「何?Yoi Sushi初めてなのか?(この期に及んでまだヨイスシと言っていた)旨いだろ。Paddingtonはこんなもんじゃなくて更に旨いぜ」と畳み掛けてくる。
生温かいシャリに襲われ放心状態になりそうな僕には、”This is British sushi, it’s totally different from Japanese one.”と返し、隣に座っていた白人のイギリス人を若干ビクつかせ、一矢を報いるのが精一杯であった。
やはり、旨いものに近道無し。帰路につく途中、阿倍仲麻呂ばりに望郷の念を一句歌おうかと思ったが、それは止め、代わりに今度は、PaddingtonのYo!Sushiなんかではなく、ロンドンの寿司の良心「寿司清」に久々に行って穢れを取ろう、そう誓った夜であった。