親の有り難さと難しさと
私は生まれてこのかた、
両親に対してさほど不満を感じた事がない。
そういうと偉そうだけれど、
たくさんの方とお会いしていて、
ご自身の親御さんとの葛藤や問題を
抱えていらっしゃる方が多いことに驚いた。
素直に感謝の気持ちを感じ続けられている私は、
かなり恵まれているのかもしれない。
親の愛。
それが当たり前で育った私にとって、
結婚して知ったもう一つの親子の関係は
目新しかった。
結婚してすぐに姑から言われた言葉は、
「男の子というのはなかなか自分では
話さないものだから、
何かあったら代わりにちゃんと電話してきてね。」
だった。
この家ではそれが嫁の役割らしい。
「今までは具合を悪くしていても
何も言って来なかったから
ずっと心配していたけれど、
これからは心配いらなくなったわ。」
とも言われた。
子供が生まれて家族が増えてから
よく言われた言葉はこうだった。
「一人だったらこんなに頑張らんでもいいのに、
家族が居るからこそこんなに苦労しているんだから、
仕事がうまくできるようにちゃんとしたってね。
休みの日でもこんな小さな子供がいたら、
邪魔したりしてゆっくり休む事も出来ないやろうから。」
家族の為に働いてお金も入れて、
賭け事も女遊びもしていないんだから、
どれだけ良い夫か。
そんな夫が過ごしやすいように
全てのことをするのが嫁の仕事だ。
しかも専業主婦なんだから、
夫に子供の面倒を見させるなんてとんでもない。
そう言われ続けて、
私なりに思う事はあった。
でもそこに私の気持ちを挟む事は
ほとんどしなかった。
自分の親が言っている事だから
それが正しいと言い、思うように行動する夫。
知らない土地で幼い子供を三人抱える私には、
改善する余裕もなかったし、
たとえ話し合ったとしても
大げんかにつながるだけだった。
結婚というのは
お互い違う環境の家庭で育った男女が、
互いに歩み寄りながら
新しい形の家庭を築いていく事だと思っていた。
でもそれはあくまで私の考えだったようだ。
正月とお盆に帰省する度によく舅と姑に言われた。
嫁に来たんだから家に馴染むのが当たり前。
兄の嫁の両親は、
娘が至らなくて申し訳ないと謝りに来るくらい
ちゃんとしているのに、と。
どれだけ我が子が可愛いんだろう。
しかも既に大の大人になっている息子なのに。
ああはなりたくない。
何度も心の中で叫んだ。
十年ほど前、
夫婦間のトラブルに舅姑が間に割り込んできた。
結果私と子供達は、
結婚以来住んでいた東京から
実家のある大阪へ急に越して来ることになった。
その一年後、
転勤で大阪に来る事となった主人と
同居する事にはなったのだが、
関係は修復する事もなく、
家庭崩壊へと進んでいった。
騒動が起きてからというもの、
主人の両親の言動は
覚悟をしていた私の考えのさらに上をいった。
「こんなに考え方が合わんのやったら、
息子は可哀想や。
早く別れてもっと合う良い人を探して
結婚させなあかん」
そうも言われた。
我が子の為なら、
そこまで無慈悲にも攻撃的にもなれるんだ。
呆れる事を通り越して、
感心してしまうほどだった。
何をされるかわからない。
ある種の狂気さえ感じた事もあった。
それほどまでに
息子を愛しているという事だと思っている。
それだけは痛いほど感じた。
ある時、
母と話をしていた。
突然こんな境遇になってしまった
娘と孫達に心を痛めて、
身を削りながら応援してくれていた。
そんな母が放った一言。
それを聞いた時に目の前が真っ白になった。
姑が息子を守る為に
私に言った事と同じような内容の言葉が
母の口から出たのだ。
何を言われたのか全く覚えていない。
姑が息子を守るために
私に攻撃をしてきたのと同じように、
母が主人を悪く言ったように思う。
それは私が聞くには決して悪い言葉ではなく、
私を思って言ってくれていることが
痛いほどわかる言葉だった。
でも、同じだった。
一緒なんだ。
たとえこれほどまでに歪んでいたり、
狂気に満ちているように思えるとしても、
親にとっては純粋な
我が子への愛から出た言葉なんだろう。
それを理解した瞬間、
真っ白だった頭の中は、
真っ黒に染まっていった。
家族が元気になった今でもなお、
私自身は未だに主人の実家にいく事はない。
気付いたところで、
全てが解決するほど単純なものでもない。
私の周りにもいる親御さんとのわだかまりを
抱えておられる方々。
なぜそんなに頑ななのかと思っていた。
きっとそれはお互いの言動が
相手を思いやる気持ちから始まっているからこそ、
自分は間違っていないとどこか執着にも似た何かを
思い込んでいるからではないか。
尊いはずの愛も、
角度がずれればヤイバにもなる。
大きな代償と引き換えに手に入れた答え。
母としての私の愛はどこを向いているのだろう。
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