まだ20代前半だった頃。


とても不思議な体験をした。




池袋の東急ハンズに買い物に出掛けた。


当時、近場の移動手段は全てスクーターだった。




確か、梅雨か梅雨明けの暑い日。



豊島岡女子のある交差点にて、信号待ちで停車していた。




すると・・・・




仕立ての良さそうなスーツに蝶ネクタイ、


髪は綺麗に整えられた白髪・・・・・


そんな老紳士がゆっくりと目の前の横断歩道を横切る。





その老紳士は歩きながらも、その視線はずっと私の方に向けられている・・・・



その表情たるや、何か物珍しいものでも見ているかの如く・・・・





こちらとしても何故視線がこちらに向けられているのかは分からない。



「?」



また老紳士の様子をうかがう。



そしてまたもや、こちらを物珍しそうな表情で見ているのだ。




内心、「この暑さでお爺ちゃんちょっとイカレちゃったか?」



などと思いつつ、青信号になるのをじっと待っていた。



すると、一旦通り過ぎたはずの老紳士がわざわざ引き返してきて


私の方に歩を進めてきた。




「あのう、もし・・・・・」




と、その老紳士に突然話し掛けられた。



「はい???」



としか答えられない。




その直後、感嘆たる表情と口調でまた話し始めた。




「貴方、必ず幸せになりますよ。」




と。




「あぁ、、、はい、、、、??」




例えるなら、


突然目の前で“クルリンパ”をされたかのように


どう返答していいのか分からない。




そうこうしてるうちに、信号が変わる・・・・



とりあえずその老紳士に会釈をして、スロットルを開ける。





ミラー越しに映る老紳士は、私が走り去る後姿をずっと見ていたのである。











私の人生の中であった七不思議のうちの一つ。





一度きりの、たった一言でも・・・・・・



人の心に永遠に刻まれる言葉があるのだと・・・・





その老紳士からは、短くも偉大なお教えを戴いたのである。