秋の夜 1  | Side by Side -- Love Always

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ジェジュン溺愛+ユノ敬愛+チャンミン偏愛の管理人による、彼らを愛でるブログです。


この物語は完全なるフィクションです。
実在の人物をモチーフにしておりますが、実際の彼らには何ら関係ございません。


ものぐさパンダのブログ 今日の行動に、特に意味はない。

幾つかの偶然が重なって、何となくそうなっただけだ。


今日は、CM撮影が予定よりも大幅に早く終わった。

撮影の衣装はスーツだった。

それを、スポンサーからの好意で贈呈され、着替えるのが面倒だったので、そのままの格好でスタジオを後にした。


宿舎に戻ろうと運転していたら、事故渋滞にひっかかった。

道路は駐車場と化した有様で、少しも進まない。


溜息混じりに車の窓を開けると、心地良い風が入ってきた。

最近ぐっと気温が下がったソウルの街は、深まる秋の気配に包まれている。

早朝からの撮影だったから深夜の気分だったが、周囲はまだ日が暮れたばかりだとあらためて気付いた。


車道の脇の歩行者通路を歩いている人々を見ると、苛立つ気持ちを抑えながら車中にいるのが嫌になり、いっそ歩きたいと思った。

かと言って、車を捨てて行くわけにはいかない。

時速5キロ以下の運転で少しだけ進んだところで、パーキングの看板が目に入り、反射的にそっちへハンドルを切った。

車が無いと明日が不便だとわかっていたが、渋滞で疲れるよりマシだ。


通りには、そこそこ人が行き交っていたが、皆、帰宅を急ぐように足早に歩いていて、意外と注目されずにすんだ。

身長ゆえか数人に気付かれたが、幸い誰からも黄色い声をあげられることもなく、秋の散歩が出来た。


ここからだと、宿舎よりも恋人の部屋の方が近い。
歩きながら、そう考えた。

いや、本当は車を停める前からそう考えていた。



ものぐさパンダのブログ-1

道端の花屋で、白い薔薇が目に入った。

普通の白ではなく、かすかな虹色のヴェールをまとった白だ。

何気に一輪、手にとって眺めてみると、透明感のある白が照明を映してそう見えているのだとわかった。


ふと、自分だけの白を思い出した。

2008年のあの時、素肌に着た白い衣装が、とても良く似合っていた。

隣で「少し寒い」と言われて手を差し出すと、そっと握って嬉しそうに微笑んだ。



喜びの中、白をまとった愛する人を、強く抱き締めた。

あの時の幸せな溜息を、今でもはっきりと覚えている。


花屋にあった全ての白い薔薇を買うと、大きな花束になった。

こんな物を持って歩くと目立ち過ぎると、頭ではそう理解しているのに、この白を他の誰にも渡したくないような気がして。





気をきかせた店員によって紙袋に入れられた花束を提げ、裏道を歩いた。

この辺りはあまり詳しくない。

恋人が最近、高級マンションを購入し、引っ越してきたばかりの場所だ。

少しの無理をしてまで、高すぎるマンションの購入に踏み切った目的は、プライバシーを万全に確保すること。

それが誰のためかは、良くわかっている。


だから、こういう目立つことはしない方がいい。

そうわかっているのに・・。


マンションの正面玄関を避け、地下駐車場への通路に駆け込んだ。

さり気ない風を装って人目のないことを確認し、植え込みに身を隠すようにした。


何の約束もしていないから、恋人が部屋にいるかはわからない。

先に電話をして予定を確認した方がいい。

それもわかっている、けれど・・。


渡されていたカードキーを使ってエレベーターのロックを解除し、ペントハウスフロアーへと上った。

しんと静まり返った廊下を足早に歩き、部屋の前に立つ。


チャイムを鳴らそうかと考えたが、留守の確率の方が高いと思い直し、合い鍵を使った。


広いペントハウスを奥へと進んで行くと、微かに音楽が聞こえて来た。

よく知っている曲だ。

ここ最近、嫌になるほど聞いている。


恋人はオーディオルームにいた。

部屋の入り口に背を向けて机に向かい、パソコンのモニターを見ている。

大きめのモニターが映し出しているのは、他ならぬ俺、新曲のPV。


「部屋に居る時はチェーンをしておけよ」
わざと不機嫌そうに声をかけると、恋人は驚いたように振り返った。

「どうして、ここに?」と、小さく呟く。

白い頬が、少しだけ、さっと上気した。


足早に近付いて、慌てて画面を閉じようとしていた恋人の手を押えた。

「何を見てた?」

そう尋ねながら肩越しに画面を覗き込もうとすると、相手は、まだ自由な方の手でモニターの電源を落とした。

「何でもない」

「何でもないなら、見てもいいだろ?」

後ろから抱きすくめて耳元で囁くと、恋人はくすぐったそうに肩を竦めた。

「・・知ってるくせに、ユノは意地悪」

不満を告げる声が甘い。

頬にキスをして、首筋に顔を埋めると、いつもの甘い匂いがした。

甘い声、甘い匂い、俺の恋人は何もかも甘い。

そして、恋人や友人を甘やかす。

甘くないのは、自分自身に対してだけだ。

もっと先へ進まなければならないと、応援に応えなければいけないと、いつも自分を追い詰める。


「それ何?」

「ああ、これか・・」

問いかけに応じて身体を離し、紙袋から花束を取り出した。

「お前にだ。通りの花屋で買った」

「・・え? ユノが?」

不思議そうに問われて、思わず苦笑が漏れた。

「悪いか?」

「・・・覚えててくれるなんて思わなかった」

「何を?」と聞き返してしまいそうになるのを意識して止めて、言葉の続きを待つ。

「今日は・・初めてユノと・・」

普段は白過ぎるほど白い恋人の頬が、薄い桜色に染まった。



そう言えば、初めて抱いたのは秋だった。
二人共まだ若く、恋人は怯えて泣きながら、それでも、拒むことなく俺を受け入れた。

最高の親友、もっともわかりあえる仲間、それ以上を望んだ俺に、懸命にこたえてくれた。

「ユノが好きだから。ユノだけが好きだから」

そう言った声は小さく、かすれていた。


「スーツと薔薇の花束なんて、らしくないよね。長い付き合いなのに、ユノがこんなロマンチストだとは知らなかった」


「涙の滲んだ瞳で憎まれ口を言われても、可愛いだけだ」


顎に手をかけて持ち上げ、柔らかな唇に軽く口付けた。

続いて仕掛けた深いキスの途中で、恋人が手をつっぱって身を離した。

「薔薇を・・花瓶にいけないと・・」

声が少し上擦っている。

お預けにされた不満を伝えるため、両肩を小さくあげてみせると、恋人は小さく微笑んだ。

「お腹すいてない?」

照れ隠しか、唐突に話題を変える。

「俺が食べたい物、察してるだろ」

「・・うん・・」

また、困ったように微笑む。

数えきれないぐらい身体を重ねても、こういうところは昔からずっと変わらない。


デビュー以来、人前では気さくでノリの良いキャラクターを出している恋人が、心から気を許した相手にだけ見せる、子供っぽさと、純粋なはにかみ。

今や堂々たるアーティストである恋人の、傷つきやすい無防備な姿、一途な愛。

それが自分にだけ向けられていることの喜びは、とてつもなく甘い。


「いい匂い。花瓶、どこ入れたっけ・・」

花束に顔を寄せて匂いを嗅ぎながら、小さく首を傾げる姿が可愛い。

「ごめんね、花瓶、急いで捜すね」


「ゆっくりでいい、シャワー浴びてくる」

そう言って身を翻したところを、後ろ手を取って引き止められた。

振り向くと、恋人の潤んだ瞳があった。

「シャワー浴びないで。これ、とりあえず水につけて、すぐ寝室に行くから」

「何で?」

意味がわからず問い掛けると、恋人は俯いた。

「・・・ユノの・・・スーツ、・・脱がしたい・・」


寝室のベッドに腰掛けて待ちながら、小さく十字を切って、最愛の恋人に小さな嘘をついた許しを乞うた。

本当は、今日が何の日かなど覚えていなかった。

初めての時の記憶は、季節と、小さく震えていた心細そうな顔。

そして、一つになった時に感じた、世界で一番大切な相手を手に入れたという強い気持ちだけだ。


ものぐさパンダのブログ だから、今日のことは全てが偶然の産物なのだが・・。

これはきっと神からの贈り物だと、そう思うことにした。

秋の長い夜は、まだ始まったばかりだから。