Principle Cubed - Everlasting Friendship(完全版)
[Chapter.II] Episode.2 <終焉>
 
 
瑠璃色の刀剣は再びイルカの群れに姿を変えると、大きな円を描くように全方位に散開し、広大な戦場をゆっくりと周回した。
 
宇宙に満ちた静寂。
虚空を漂う混沌の残骸は、闇と同化するように微動だにしない。
 
 
 
 
「…私たちが人間だったら、これで終われたんでしょうね?」
 
宇宙の深淵から絞り出したような囁きが、審判の時が終わっていない事を告げる。
 
「生があるから死が生まれる。ボクたち虚無は、生も死も超越した実態ある概念…」
「概念を殺す事なんてできる?あぁ…果てる瞬間の快感…羨ましいわ!」
 
混沌の首からゆっくりと頭部が再生すると、開いたままの瞳の空洞から嘲笑が轟いた。
 
「いい加減、無駄だって気付けよっ!!俺たち混沌を消す事はできねぇーんだよっ!!」
「貴方たちにも味わせてあげる、永遠の快楽を…」
 
 
 
 
 
 
 
「さぁ、死んで一つになってちょうだい!!!!」
 
 
唐突に跳ね起こされた上体。霧状になった両腕が無数の弾丸となり発射される。飢えた獣となって迫り来る、視界を埋め尽くすほどの影。
獰猛な獣の群れが目前まで迫った時、戦闘態勢を解く事のなかったリコが、動じる事なく守護の言霊を唱えた。
 
「約束された美よ!黒き穢れを阻み、我に仇なすものを拒みたまえ!」
 
半透明に輝くパールの殻が三人を包み込む。次々と着弾した闇獣が、鈍い衝撃と共に後方に弾け飛んだ。
間断なく続く攻撃が不安を煽る轟音を響かせるが、リコの魔力に呼応して年輪を重ねるが如く強固さを増すシェルに防御の不安はない。
 
反撃の隙を与えられず、尽きる事のない弾幕が視界を完全に黒く塗りつぶす。その向こうで、混沌の上半身が天に向かって静かに伸ばされた。
敵の姿を遥か下方に見下ろす天空。伸張が止むと同時にゆっくりと頭頂部に亀裂が入り、花弁を捲るように胸までざっくりと裂けた。熟れたザクロを思わせるグロテスクな捕食者の姿。
 
そして、星を呑み込むほどに巨大な開口部を晒すと、直下の獲物を見定め、突如急降下した。
 
雌雄を決する時。
 
猛烈な速度で迫り来る捕食器。加速で狭まる視界。混沌の目に映る眼下のシェルが徐々に大きくなる。
時間にしてコンマ数秒。着弾が続くシェルが視界いっぱいに広がり、今まさに呑み込まんとするその時、塗りたくられた闇の合間から上方を睨みつける視線とぶつかった。
闇の気配を捉え続けていたミライが、勝機を逃さず反撃に移る。
 
「氷の彫刻よ!静止した時に宿る魂よ!今こそ羽ばたき、命の歌を奏でたまえっ!!」
 
生命の躍動を感じさせるざわめき。
次の瞬間、パールの大地から翡翠のツバメが一斉に飛び立ち、盛大な羽音を轟かした。天に昇る流星群が、全てを飲み込む頽落の夜に果敢に挑む。
 
接触。瞬きの一瞬。
 
音もなく跳ね踊る身体。直後、頭上に広がる黒衣の傘は、骨も残らぬ無惨な姿に変わった。原形を留めぬ粒子の群れに成り果てた混沌。
堪らず再集結を始めるが、半円を描いて広範に散った身体は簡単には再生しない。
 
「リコ!混沌を封じ込めるにはやっぱり命の力しかない!このまま一気に行くよ!」
「分かった!モフルンも頼んだわよ!」
 
戦場を周回したままのイルカとツバメの群れが急速に集合し、混沌を取り囲む。
旋回する命の軌跡が、ウルトラマリンとフォレストグリーンに彩られた無数のリングに変わった。
 
「悠久なる円環よ!溢れん生命の力を持って全てを受け止めたまえ!!今ここに命ある喜びを!!」
 
混沌を中心に回転を始めたリングが、高速に球体を編み上げていく。狭められていく包囲網。
そこに現れたのは、全ての生命を育む豊穣の星…母なる地球の姿であった。
 
「地球は…人間は…、絶対に…」
 
 
 
 
 
 
 
「絶対に負けないんだからっ!!!!」
 
 
瞬間、静止する地球。
一瞬時が止まったかのような錯覚を与えた直後、拳大の大きさにまで圧縮され、刹那、宇宙を真っ白に染め上げる強烈な光を発した。
光に揺られるように霧散していく混沌の影。
 
 
「こ、これは…忌々しきラパーパと同じ力なの!?」
「たかが、たかが人間如き…なんで、なんで喰い尽せない!?」
「うろたえてるんじゃねぇーぞっ!!またバラバラにされて封印されてぇーのか!?覚悟を決めろっ!!」
「私たちも一つになるのよ…帰るわよ、絶対の混沌…原罪の常闇へ!!」
 
「…… … … … 」
 
「…… …」
 
「.. . .」
 
 
 
 
圧倒的力を持って、人外の力をねじ伏せた三人の<プリキュア>。
最後の一片が消えてなくなり、そこには純白の光だけが残された。
 
 
 
to be continued..