Principle Cubed - Everlasting Friendship(完全版)
[Chapter.I] Episode.5 <途切れぬ思いを胸に>
 
 
緊張で全身を強張らせたミライとリコ。
そんな二人を真っ直ぐに見つめ、学園長が改めた口調で話し始めた。
 
「<デウスマスト>そのものである<リンクル・ストーン>…7つ全てがこの世界で揃い、人類の尽きる事なき欲がそれを解放させました。
然し<リンクル・ストーン>は、決して厄災の象徴などではありません。キミ達も覚えがあるんじゃないですか?」
 
ミライとリコの脳裏に、<リンクル・ストーン>が授けた不思議な力、そして、これが神の創造物であるという挿話が蘇る。
 
「二つに別たれた世界は、少しずつではありますが、それぞれが目指すべき未来に向けて歩みを始めていました。両者が指向したのは、皆が一緒に笑いあえる明るい未来…その希望を繋ぐ過程で<リンクル・ストーン>も本来の意味を取り戻す事になります。
人々の思いを繋ぐ意思の結晶…<Linked Stone>
<リンクル・ストーン>が招来した<審判の使者>との戦いの最中、キミ達に力を与えたのは、この人類の心を結ぶ思いの力そのものだったのです。」
 
二人の反応を確かめながら、学園長が続ける。
 
「繰り返しになりますが、混沌の復活は<最後の審判>の再開を意味します。そして、太陽を飲み込んだのが事実であれば、最後の封印…思念体も解放されたと見て間違いありません。
これに対抗できるのは<Linked Stone>…心が結ぶ絆の力を手にした、キミ達二人をおいて他にはいないでしょう。」
 
この言葉を予期していたミライとリコは、下唇を噛み締め俯く。
 
「…でも、人間界の兵器でも、魔法界の魔法でも太刀打ちできないんでしょ?人の力でどうにかできる次元を超えてるよ…」
「ラパーパだって、この星の全生命と太陽の力を借りて何とか封じるのが精一杯だった…でも今はもう、ラパーパも太陽もなくなっちゃったんですよね?」
「もう…無理だよ…」
 
世界を救う。突然押し付けられた大役の重圧に加え、現実に立ち塞がる余りにも高すぎる壁。
それは微かな使命感を希望ごと押し潰し、絶望が胸中を塗り潰すのに余りある重さだった。
 
… 第二師団は戦線を下げて立て直せ!第三師団は左翼に展開して援護! …
… 第一砲兵連隊は頭部に弾幕を集中!後備五番連隊は工兵連隊と連携して呪詛緊縛の詠唱に入れ!少しでも時間を稼ぐんだっ!! …
 
混沌の襲撃を持って即時戦闘配置への移行が完了した中、学園長にも本来は司令官級の役割があるのだろう。小型の無線機のような機械から、熾烈な戦闘状況を告げる怒号がノイズと爆発音に混じって届いた。押し下げられた戦線は明らかな劣勢を示している。
一瞬無線機に向けた視線を素早く戻した学園長が、穏やかな表情で語りかけた。
 
「ミライ君、リコ君。ボクは思うんですよ。
二つに別たれた筈の世界でキミたち二人が出逢い、人間界と魔法界という垣根を越え、今というこの瞬間に居合わせている。そしてこの時代に<最後の審判>が再開された…きっとその事に大きな意味があるんだと。
ラパーパも言っていたでしょう?『理性と感情が手を取り合うその日まで待ってほしい』と。
ボクは、キミたちの姿をラパーパの言葉に重ね合わせています。そして、『その時』が今この瞬間なんだと思わずにいられません。
時は満ちた。だからゲートが融合した。全ては起こるべくして起きた。
キミたちなら…キミたちの絆があれば<最後の審判>もきっと乗り越えられる。ボクはそう信じています。」
 
 
どれ程の時間が経ったのだろう。
 
言っている事は分かる。<Linked Stone>の力を手にした者がこの戦いに相応しいのも間違いないだろう。
それでも思わずにはいられない。
どうして私たちなのか?どうしてこの時代だったのか?どうして世界はこのように在るのか?どうしても理不尽だと思う気持ちを拭えない。
 
鳴り止まない轟音を背景に、無言で見つめる学園長。ただ項垂れる事しかできない二人の少女。
 
その時だ。
 
静止したままの時間の中、俯く二人の視線の先を滑るように一つの影が動いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「モフ…ルン?」
「どこへ…行くの?」
 
扉の前で立ち止まったモフルンが、背中を向けたまま呟く。
 
「モフルン、アイツをやっつけるもふ。」
「モフルン…」
「でも、私達にできる事なん…」
 
 
 
ズズゥゥゥーーーーンッ……!!!!
 
 
 
これまでと比較にならない程大きな衝撃が走り、3人とも同時に床に叩きつけられた。
天井から砂礫が舞い落ち、揺れの収まらない床に薄っすら積もる。
 
「皆さん、大丈夫ですか!」
「イタ…今度は何…」
「…… … … ッッ!?!?」
 
床に伏したまま苦悶に歪む顔を上げると、その視線の先に広がる光景に戦慄した。
 
空を覆いつくす巨大な闇。脳が自己防衛的に現実の認識を拒否する感覚。
魔法障壁を破った混沌がその巨大な腕を振り下ろし、のし掛かるようにこの学園を押し潰そうとしていた。
L字型に建てられた別棟の屋上付近で、大勢の上級魔道師が宙を舞っている。防御結界を張って辛うじて食い留めているが、長く持たない事は明らかだ。
 
目前まで迫った世界の終わりを直感し、立ち上がる事すら忘れた二人の傍らで、再び立ち上がるモフルン。
 
「モフルン…もういいよ…」
「きっとこれが私達に下された審判なんだよ。」
 
 
「… … …」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……何が…何がいいもふ?」
 
背中を向けたままの小さな身体が震える。
 
「何がいいもふ?ミライとリコは悔しくないもふ!?」
 
振り向いたモフルンの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。初めて見たモフルンの涙。
こんなにも小さな存在が、必死で大切なものを護ろうとしている。
早々に護る事を放棄し諦観の念を口にした事が、この小さくも純粋な存在を、どれほど傷付けただろう。
三人で育み、余す事なく共有してきた筈の大切な思い。二人にとってはその程度のものだったのかと非難されたようで、ズキッと心が痛んだ。
 
「ミライは、魔法使いに逢いたいってずっと思ってたもふ。
だからモフルン、ミライのためにどうしても魔法使いを見つけてあげたいって思ってたら、リコがモフルンを見つけてくれたもふ。
リコはミライと友達になって魔法界に連れて行ってくれたから、モフルンも喋れるようになったもふ。
いっぱい、いっぱい、お話できたもふ。
モフルンにとってこの世界は、ミライとリコとの思い出がいっぱい詰まった大事な世界もふ。」
 
どこかたどたどしくも、感情を包み隠さず真っ直ぐに思いを乗せた言葉が、二人の胸を打つ。
 
「世界がなくなったら、全部なくなっちゃうもふ。幸せな毎日も楽しい記憶も全部なくなるもふ。
モフルン、ミライとリコと出逢った事もなくなっちゃうなんて絶対イヤもふ。
みんなで居られる幸せ…この幸せを明日も残したいもふ。次の日も、その次の日も残したいもふ!ずっと、ずぅ~~っと残したいもふ!!
だから…、だから魔法を掛けたもふ…」
 
そう言って小さな身体を震わすモフルン。
そして、ミライとリコがそうするように、力強く腕を振り上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ミライとリコは、負けないもふ!
絶対に、絶対に、ぜぇーーったいにっ…負けないもふ!!!!」
 
 
 
円らな瞳から弾けた涙の雫を見た瞬間、これまでモフルンが掛けてきた魔法の言葉の数々が克明に甦る。
 
…モフルンとミライとリコは、ずっと仲良しもふ…
…モフルンとミライとリコは、ずっと笑って過ごすもふ…
…モフルンとミライとリコは、ずっと一緒もふ!明日も、次の日も、その次の日も、ずっと、ずーっと一緒もふ!…
 
 
床に落ちた雫の跡で、涙を流していた事実に気付く。
モフルンの魔法、楽しかった日々の思い出。どこにでもあるような何でもない記憶が、二人の身体に…心に力を甦らせた。
圧倒的な力の差は決して埋まらないかもしれない。絶望だって都合よく消えてなくなったりはしないだろう。
 
それでも、護りたいものがある。
 
世界とか使命とか責任なんて関係ない。ただただ同じものを護りたいと願う、大切な友達が目の前にいる。
 
 
「ありがとう…モフルン…」
 
闘うべき理由は、最初からこの胸の中に鮮やかな記憶として存在していた。それを理解した二人は足に力を込める。
涙を拭う必要はない。この涙は絶望でも悲観でもない、純粋な希望の涙なのだから。
立ち上がり、向き合った三人は静かに目を瞑った。
 
手を差し伸べるミライ。
 
「ねぇ、私たちが出逢えたのって、ホントに奇跡みたいな事だよね?
リコは魔法の国から来た童話の世界の女の子みたいだし、モフルンなんてぬいぐるみだし!
私は…私達の奇跡の力を、未来に繋げたい!!」
 
ミライの手を取るリコ。
 
「私達を繋げた魔法の力…こうして繋げた手が、伝えた思いが生み出した心の力。
ねぇ、私たちが出逢ったのはきっと偶然なんかじゃないよね?
魔法が心の力なら…私達だから出逢えた。私達だったからこそ出逢う事ができた…今はそう信じてる!
私は…私達の心の力を、未来に繋げたい!!」
 
小さな手を伸ばし二人の手を取るモフルン。
 
「こうやって繋げていけば、何処までも繋げていけば、思いはきっと消えないもふ。
消えない思いは奇跡を起こすもふ。そんな奇跡の連続が毎日の幸せ…生きるって事もふ!
モフルンは、みんなが生きる力を、未来に繋げたいもふ!!」
 
繋いだ手がハートの形になる。
奇跡の力…魔法の力…生命の力…3色に彩られた淡い光が三人を包むと、その中央から虹色の輝きが立ち昇った。
 
 
 
「…そっちの世界でも見えているかい?」
 
遠い日の思い出に浸るような眼差しで学園長が呟く。
 
「ボク達はそれぞれ違う世界で生きる事になったけど、きっとこの光は、お互いが歩んだ時間が間違いじゃなかったっていう証明だよね?」
 
幼き少女たちに世界の命運を託さざるを得ない事実に、罪悪感に似た気持ちも勿論ある。
だがそれ以上に、自分たちが為しえなかった事を次の世代に託せた…自分たちが育んだ思いを確かに繋げる事ができたという矜持が勝る。そんな表情であった。
 
学園長が見守る中、手を繋いだ三人が同時に目を開く。
両の瞳に宿った決意を確認するように大きく頷きあうと、次の瞬間虹色の光は強烈な輝きを放つ巨大な矢となり天を貫いた。
 
 
 
「さあ行こう…私達の絆を守る闘いへ!!」
 
 
 
 
 
 
 
* * *
 
 
<マザー・ラパーパ>が世界から去る時に残した言葉がある。
 
『心を繋げたいと強く願うものが二つの世界に現れ、その思いが途切れる事なき一つの形を成した時、奇跡は必ず起きる』
 
そして、この奇跡の魔法をこう名付けた…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<プリキュア>と。
 
 
 
 
 
to be continued..
 
 
 
イラストについては、紙に書いたラフを下絵にタブレット&100均スタイラスでCG作成する予定が、諸般の事情からラフをそのまま上げる事に;
気が向いたら、後日差し替えとします。
#一旦アップすると、恐らく気が向く事がないと思われ(ぉ