Principle Cubed - Everlasting Friendship(完全版)
[Chapter.I] Episode.4 <襲撃>
 
 
「どうした?何が起こった?」
 
素早く周囲を観察する学園長。廊下を走る足音が徐々に近付き、執務室のドアをノックなしに乱暴に開けた。
青褪めた表情をはっきりと見て取れる上級魔道師の士官が、息を整える間もなく憔悴した口調で告げる。
 
「学園長!混沌が…混沌が人間界への襲撃を始めました!
魔法障壁の張られていない人間界は、既に全人口の約2割が混沌に飲み込まれたようで、人間界の陥落は、その…時間の問題…かと…」
 
報告の途中でミライの存在に気付き、歯切れが悪くなった言葉。
 
「そんな…じゃあ、お父さんとお母さんは?お婆ちゃんはどうなったの?ねぇ、学校のみんなは?」
 
日常に慣れた思考は、唐突に突きつけられた残酷な事実を受け入れる事を拒否した。放心し抜け殻となった身体は微動だにしない。
呆然と立ち尽くすミライの肩に手を置き、ゆっくりと応接ソファに座らせる学園長。
冷静な表情を維持したまま顔を上げると、皆を落ち着かせるようにゆっくりと口を開いた。
 
「魔法界の状況は?混沌の襲撃までにどれくらいの猶予がありますか?」
 
「現在魔法を使える者を総動員させ、多重結界の構築と防衛ラインに配置された魔道砲への魔力充填作業に当たらせています。
ただ、混沌の襲撃予想時間が24時間を切っている状況を考えると、とても時間が足りな…」
 
 
 
 
 
 
……ゴゴゴォォォッッ……!?
 
 
「きゃああぁぁぁーーーっ!?!?」
 
 
 
 
突然の轟音に続き、数秒遅れて到達した大気を震わす衝撃。縦に貫くように地面が跳ね上がり、一斉に窓ガラスが散った。
ソファから投げ出されるミライ。咄嗟にデスクにしがみ付くリコ。その足元に、額から血を流す男性職員の身体が転がる。
建物が軋む音に混じる悲鳴。魔法灯の照度が下がり、赤黒い闇に沈んだ空間が一層不安を掻き立てる。
一瞬にして校内は阿鼻叫喚の地獄に晒された。
 
「皆さん…大丈夫ですか…!?」
「何が起こったっ!?状況報告はまだかっ!?」
 
混乱の最中、安否を気遣う学園長と、怒号を発する上級魔道師の声が重なる。だが、報告を待つ必要はなかった。
苛立ちを抑えきれず視線を彷徨わせた先、執務室の割れた窓から覗く光景が視界に入った瞬間、鼓動を停止するように心臓が萎縮した。
ひびが入り可視化された魔法障壁。そして地平線の彼方、障壁の稜線を遥かに超える巨大な体躯。星全体を覆うような闇を象る影。
 
その場にいた全員が凍りついたまま視線を離せないでいると、開け放たれたドアから入ってきた連絡員が報告の檄を飛ばした。
 
「報告します!叡智の森の北東方向から混沌が出現!先刻の攻撃により、第1及び第2魔法障壁が機能消失、全防衛機能の約10%が損傷しました!一部の建物で軽微の被害が出ているものの、現時点で基幹機能への影響は認められません!」
 
「バカなっ!?予想より早すぎる!!一体何があった!?」
 
「混沌は太陽を飲み込み力を増した模様。観測魔法が阻まれ確認できておりませんが、恐らく人間界はもう…」
 
「太陽…を?そんなのと一体どうやって闘えば…」
 
全身を駆け抜ける脱力感。指の間からステッキが滑り落ち、場違いな軽々しい音を響かせるが、ミライもリコもそれに気付かない。
居合わせた一同もまた同じで、意識しなければ立っている事さえ困難な程の無力感が蔓延していた。
重苦しい空気を断ち切るように学園長が指示を飛ばす。
 
「防衛部隊は魔法障壁を放棄して、転移呪文の詠唱準備を。殲滅部隊は攻撃を開始して少しでも時間を稼いで下さい。非戦闘民は学園の講堂に緊急避難を。事務員は誘導をお願いします。転移準備が整い次第、この学園を拠点に戦域離脱します。
いいですか?この戦は戦略的撤退戦です。命を繋げる事を第一に考えて下さい。
…ミライ君とリコ君はお話があるので、ここに残っていただけますか。」
 
ミライとリコを残し、部屋にいたものが全員退出すると、学園長はゆっくりと扉を閉めて執務机に腰を下ろした。
 
 
「ミライ君、リコ君。キミ達にお願いがあります。」
 
 
 
to be continued..